DX方針を社内に浸透させるには ─ 翻訳力の重要性

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

前回は「ありたい姿をどう描くか」をテーマに、CX(顧客視点)・EX(現場視点)・BX(経営視点)の3つの軸から、DX方針を設計する第一歩を整理しました。

今回はその続編として、描いた“ありたい姿”を どう社内に伝え、浸透させるか を考えていきます。

「伝える」ではなく「翻訳する」

DX推進において、多くの企業がつまずくのは「方針を正しく伝えたのに、動かない」という場面です。 しかし、実際には“伝えた”のではなく、“翻訳できていなかった”のです。

経営層が語る方針には、往々にして抽象度が高い言葉が並びます。

  • 「顧客中心のサービスへ」

  • 「現場DXを加速する」

  • 「ナレッジを武器にする」

いずれも正論ですが、現場のサービスエンジニアやスーパーバイザーにとっては、「それで明日、何を変えればいいのか?」が見えません。

このズレが放置されると、DX方針は「絵に描いた餅」になってしまいます。現場にとっては、目的が自分事化されず、「また本社のプロジェクトか…」という空気が生まれてしまう。

結果として、改革が“進んでいるようで進まない”状態に陥るのです。

DXを進めるうえで必要なのは、“意図を翻訳する力”です。

翻訳とは、「意味を置き換える」こと

方針を翻訳するとは、単に“言い換えたり、言葉を合わせる”ことではありません。

それは 「上位の意図を、自分たちの言葉・行動に置き換える」こと です。

例えば、経営が掲げる「顧客中心のサービス」には、複数の層の翻訳があります。

翻訳の例 実際の行動への落とし込み
経営層 「顧客接点のデータを活かし、継続収益を高める」 サービス契約更新率をKPIに設定
マネージャー層 「顧客対応のスピードと一貫性を高める」 初回解決率、平均応答時間を改善指標に
現場層 「現場で顧客を待たせない」 情報検索の迅速化、問い合わせ対応スクリプトの見直し

このように、「顧客中心」をそれぞれの層が自分たちの行動単位に翻訳できたとき、初めてDX方針は“動き出す”のです。

DX推進における「翻訳者」の存在

どの企業にも、“経営の言葉を現場の言葉に変換できる人”がいます。 それが、DX推進の成否を分ける翻訳者(Bridge Person)です。

翻訳者には3つの役割があります。

  1. 経営の意図をかみ砕く  抽象的なビジョンを、現場が理解できる目標・数値・プロセスに変換する。

  2. 現場の声を経営に返す  「実際にはどこが詰まっているか」を構造的に伝え、戦略を修正する。

  3. 方針を“行動の言葉”に落とす  「何をやる/やらない」「何を優先するか」を明確にし、現場の判断を支える。

DXの浸透において、この“翻訳者”が不在のまま「トップダウン指示」と「現場OJT」に頼るケースが多く見られますが、それでは持続的な変革は起きません。

翻訳力を高める3つの実践ポイント

私が主に海外事例分析などで見てきた成功企業の共通点は、翻訳力を組織的に鍛えていることです。 具体的には次の3点が有効です。

  1. 目的の翻訳  経営目標を、現場が自分たちの成果指標に置き換えられるようにする。

    例:「収益性改善」→「再訪問率の削減」「平均作業時間の短縮」

  2. 仕組みの翻訳  DX構想を、日々のオペレーションに結びつける。

    例:「顧客360度ビュー」→「問い合わせ履歴を現場から確認できる」

  3. 成果の翻訳  現場での改善効果を、経営指標として報告できるようにする。

    例:「入力時間削減」→「サービスKPI達成率向上」

この往復を支える人材・仕組みを意識的に設計することが、方針浸透の第一歩です。

海外企業に見る「翻訳文化」

海外では、DX推進部門と現場部門の橋渡し役を「DXオフィサー」「チェンジリーダー」といったタイトルで置く企業が増えています。その役割は単なる調整役ではなく、経営の意図を現場の行動に変換する“設計者”です。

つまり、彼らは単なるPMOではなく、“戦略の通訳者”なのです。

経営層・現場・顧客の3者の言語を橋渡しし、「ビジョンが現場行動に翻訳される」ことを仕組み化しています。

これこそが、”CTO;Chief Transformation Officer"の真の役割ではないでしょうか。

まとめ ─ 翻訳できる組織が、変われる組織

DX方針を浸透させる鍵は、“説明”ではなく“翻訳”です。

そして、DX推進の現場で最も必要とされているのは、最新のAIでもITスキルでもなく、「翻訳力」です。

経営の意図を現場が理解できる言葉で伝え、現場の課題を経営が納得する形で可視化する。

その往復運動が生まれたとき、初めて“全社一体”の改革が動き出します。


次回は、次回は、この「翻訳された方針」をどう行動計画(シナリオ)に落とし込み、 実際の業務変革へとつなげていくかを考えていきます。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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