海外事例ピックアップ #3 ─ 「AI導入のその先へ - 2025年の潮流が示す“人間中心のDX”」
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
毎週お届けしているニュースレターですが、今週は「海外事例ピックアップ」の週で、注目すべき海外レポートや調査を取り上げ、日本の製造業やサービス部門にとっての示唆をお伝えします。
第3回の今回は、米国Service Councilが2025年版として公開したレポート “The State of Artificial Intelligence and Service Technology: The Trend, The Surprise, The Red Flag”を取り上げます。
このレポートは、製造業・エネルギー・医療機器など「耐久資本財製造企業のサービス組織」を対象に、AI導入の成果と課題を分析したものです。
■ Trend(潮流):AIは“プロジェクト”から“運用”へ
ここ数年、AI導入は「PoC(概念実証)」や「試験導入」から、「日常業務に根ざした運用」フェーズへと移行しています。
特に成果を上げている企業は、予兆保全やナレッジ支援などの“運用の中核”にAIを組み込み、「AIを使う」ではなく「AIが支える」業務設計を実現していました。
調査によれば、AI活用の上位領域は次の通りです:
予兆保全(Predictive Maintenance):47%
ナレッジサポート(Knowledge Assist):42%
顧客対応自動化(Customer Self-Service):35%
需要予測(Demand Forecasting):33%
注目すべきは、これらがいずれも「人の判断を支えるAI」であるという点です。
「業務を置き換えるAI」ではなく、「判断・行動をガイドするAI」への転換が起きているのです。
■ Surprise(意外な発見):成功企業の7割が“Human-in-the-loop”を重視
Service Councilが成功企業の特徴として強調したのは、「AI主導ではなく人間中心の設計」です。
AIによる提案や予測をそのまま実行するのではなく、現場の熟練者が「なぜそう判断したか」を検証できるプロセスを残している。 この構造が、属人知の形式知化と、AIの継続的学習の両立を支えています。
つまり、“AIが判断する”ではなく、“人とAIが対話する”。
この「Human-in-the-loop(人間参加型)」設計こそが、成功と失敗を分けているのです。
■ Red Flag(警鐘):ROIが測れない、“AI疲れ”の兆候
一方で、依然として多くの企業がROI(投資対効果)の測定に苦戦しています。 その背景には、
現場改善(MTTR短縮・応答時間削減)レベルで止まり、経営KPIとの接続が弱い
「AI導入=改革の証」という象徴的投資に終始している という構造的な課題があります。
Service Councilはこれを“AI fatigue(AI疲れ)”と呼び、特に上層部での「成果実感の欠如」がリスクになりつつあると指摘しています。
AI導入が“目的化”してしまった企業ほど、この疲弊に陥る傾向が強いといいます。
AI導入の本質は「共に考える」こと
このレポートを日本企業の文脈で読み解くと、2つの重要な示唆が見えてきます。
第一に、「AIで自動化すること」よりも「AIと共有する判断を設計すること」が鍵であるということ。
属人化を減らしつつ、人が介在する余地を設計する。 これが“現場の知”を残したまま生産性を上げる唯一の方法です。
第二に、ROIは「何をAIで変えるか」ではなく「どの価値指標を伸ばすか」で測るべきということ。
可用率・一発解決率・顧客更新率といった「価値指標」で語れないAI投資は、必ず形骸化します。
AI導入とは、ツール選定ではなく「問いの設計」なのです。
まとめ──“使うDX”から“共に考えるDX”へ
AIが企業にもたらす最大の変化は、自動化ではなく“判断の共有”です。
サービス現場の知見をAIが学び、AIの提案を人が吟味し、次の改善へつなげる。
この往復運動こそが、成熟したDX企業の姿です。
👉 来週は、この「価値指標で測るAI活用」をさらに掘り下げ、 “収益化するサービスDXの条件”について整理していきます。
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引き続きよろしくお願いいたします。