サービス部門をコストから価値へ ─ 経営層を動かす視点

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

ニュースレター前々回(10/2投稿 方針立案の第一歩)では、“ありたい姿”を描くために、CX(顧客視点)・EX(現場視点)・BX(経営視点)の3つの軸からDX方針を設計する第一歩を整理しました。

今回は、その描いた姿をどう“経営の言葉”に翻訳し、サービス部門をコストから価値へ転換していくかを考えていきます。

価値転換の第一歩は「定義の変更」から

多くの企業でサービス部門が“コストセンター”と見なされるのは、成果を「効率化」「コスト削減」といった内部最適の尺度で語っているからです。

経営層の関心は「どれだけ利益に貢献できるか」「継続収益を生み出せるか」。

この視点のズレこそが、サービスDXを阻む最大の構造的課題です。

AIやIoTを導入しても、「工数削減」「入力自動化」といった改善にとどまれば、“支出を減らした部門”で終わります。

一方で、

「再訪問率を下げて契約更新率を3%上げた」
「部品供給を最適化し、ダウンタイム損失を年間◯億円圧縮した」

と語れれば、経営の言語で語る成果となり、評価軸が変わります。

前号の海外事例ピックアップ#2でも紹介した通り、「AI導入の前にビジネスケースを設計せよ」という発想は、この価値転換の核心にあります。

技術導入を語る前に、経営が求めるKPI(契約更新率・LTV・収益安定性)で成果を定義する。

それが「サービス=コスト」から「サービス=価値」への出発点です。

海外事例:サービス部門を「収益源」に変えた企業たち

サービスを経営の中心に据える ─ それを実践しているのが、Siemens Energy, Rolls-Royce, KONE の3社です。

いずれも“売り切り”から脱却し、製品の稼働ライフサイクル全体を対象にしたビジネスモデルを確立しています。

売り切りから“稼働価値の提供”へ

Siemens Energyは、発電プラントのO&M契約にデジタル基盤「Omnivise」を組み合わせ、可用率・効率など成果指標を契約化。

Rolls-Royceは、航空エンジンを「飛行時間単位」で販売する Power-by-the-Hour(PBH) モデルを確立し、運航リスクをエンジンメーカー側が引き受ける仕組みを導入。(ご存知かと思いますが、Rolls-Royce社は、エンジンをBoeingなどの航空機メーカーに販売していますが、エンジンメンテナンス契約は航空会社と結びます)

KONEは、エレベーターの24/7常時監視によって稼働時間や安全性を“体験価値”として提供し、サブスクリプション化に成功しました。

共通するのは、「動かし続けること」そのものを顧客価値と捉え、Uptime(可用率)や安定稼働性をKPIで保証することで継続収益を生み出している点です。

参考:

リスク配分が信頼を生む

これらの企業は、可用率・停止時間・燃費・安全などの成果を契約に組み込み、顧客の運用リスクを自社の管理KPIに置き換えています。

つまり、「顧客のリスク=メーカーの経営指標」という構造を設計し、信頼をKPI化したのです。

KPIで語る“サービス価値”

  • Siemens Energy → 可用率、熱効率、CO₂原単位

  • Rolls-Royce → 燃費、Time-on-Wing、運航確実性

  • KONE → 稼働率、停止時間、利用者体験

いずれも、「顧客の成果を継続的に最適化すること」を収益の源泉に変えています。

これは単なるDXではなく、Servitization(サービス化)という経営モデルの再設計です。

日本企業への示唆──“守りの部門”から“価値を創る部門”へ

日本企業が今まさに直面しているのは、「サービスをどう効率化するか」ではなく、「サービスをどう収益化するか」です。

経営層を動かすためには、

サービスの成果を、顧客価値・収益安定性・ブランド信頼のKPIで語ること。

これが、経営の“翻訳”です。

サービス部門は、もはや「原価を管理する部門」ではなく、

顧客とリスクを共有しながら、稼働データを価値に変える“未来を創る部門”。

その定義転換ができたとき、DXは単なる効率化から脱し、経営の中核へと進化します。


👉 次回(2週間後)は、「収益化するサービスDXの条件」と題し、これらの価値転換をどう仕組み化していくかを考えていきます。

来週は、海外事例ピックアップ#3 ServiceCouncilの”AI and Service Technology Report 2025”を解説します。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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海外事例ピックアップ #2 - Neuron7.ai:AI導入の前に“ビジネスケース”を設計せよ