海外事例ピックアップ #2 - Neuron7.ai:AI導入の前に“ビジネスケース”を設計せよ

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

毎週お届けしているニュースレターですが、今週は「海外事例ピックアップ」の週で、注目すべき海外レポートや調査を取り上げ、日本の製造業やサービス部門にとっての示唆をお伝えします。

第2回の今回は、”生成AIは属人化を解決できるのか?”(9/25投稿)でも取り上げた、米国のサービスAIベンダー Neuron7.ai が提唱する「Build AI Business Case for Customer Service」というテーマを取り上げます。

多くの企業がAI導入を検討する中で、「どのツールがよいか」「どの業務に適用するか」ばかりが議論されがちです。

しかしNeuron7は、AI導入の成否を左右するのはどんな技術を選ぶか”ではなく、“どんな問いを立てるか”だと指摘しています。

本稿では、その内容を要約しつつ、日本企業が学ぶべき3つの示唆を整理します。

AI導入で失敗する企業の共通点

Neuron7のレポートは、冒頭で明確に警鐘を鳴らしています。

“AI investments fail not because of the technology, but because there is no business case behind them.”
(AI投資が失敗するのは、技術の問題ではなく、ビジネスケースが設計されていないからだ。)

AI導入が“実験止まり”で終わる企業の多くは、次のような特徴を持つといいます。

  • 成果指標が「工数削減」や「自動化率」に限定されている

  • 現場部門が目的を理解しないままPoC(実証実験)を繰り返す

  • 経営層がROIの説明を「AIだから効くはず」で済ませている

結果として、「技術的には動いたが、経営インパクトが見えない」状態に陥るのです。

Neuron7が提唱する“Build AI Business Case”とは?

Neuron7の提唱するアプローチは、AI導入を経営判断のプロセスとして設計することにあります。
単にROIをシミュレーションするのではなく、AIによってどんな価値転換を起こすのかを事前に定義するのです。

具体的には、AIプロジェクトを立ち上げる前に以下の3ステップを踏むことを推奨しています。

  1. Identify the “Business Pain”─ ビジネス上の課題を特定する

    • 現場で最も時間を浪費している業務は何か?

      顧客満足・収益に影響している非効率はどこか? 
      ー 例:診断時間が長い/一次解決率が低い/熟練者依存の判断が多い

  2. Map the “AI Impact Zone”──AIが解決できる領域を特定する

    • すべての課題をAIで解決しようとせず、「AIが最もレバレッジを効かせられる部分」に集中する。

    • Neuron7はこのプロセスを “Impact Zone Mapping” と呼びます。

  3. Quantify the Value──価値を定量化する

    • 目指すべき成果を「顧客体験」「収益」「生産性」の3軸で明示する。

    • 例:初回解決率を15%向上させ、サービス契約更新率を3ポイント改善。

このプロセスを経ることで、AI導入のROIは「仮説」ではなく「戦略的選択」になります。

技術導入ではなく、“価値仮説の設計”から始める

Neuron7が強調するのは、AIを「業務改善ツール」として扱わないこと。

AI導入は、「どのプロセスを効率化するか」ではなく、「どの価値を拡張・再定義するか」という問いから始まるべきだと説きます。

たとえば、同社のクライアント企業のひとつでは、

「AIで問い合わせ対応を自動化する」

ではなく、

「AIで顧客との接点を“経験知”の源泉に変える」

というビジョンを掲げました。

結果、導入目的が明確化され、以下のような効果が得られたといいます。

  • 問い合わせ1件あたりの平均処理時間を25%短縮

  • 顧客満足度(CSAT)を10ポイント改善

  • 何より、サービス部門が“コストセンター”から“インサイトセンター”へと認識転換された

AI導入の価値とは、技術効果の数字ではなく、組織の「位置づけ」を変えることにあるのです。

日本企業への3つの示唆

Neuron7の主張は、単なる海外事例にとどまらず、日本企業にも強い示唆を与えます。

  1. AI投資は“技術導入”ではなく、“方針立案”である
     AIを導入するかどうかは、システム検討の話ではなく、「自社の競争力を何で生み出すか」という経営方針の一部。

  2. ROIを測る前に、“価値定義”を再設計せよ
     AIの投資効果を議論するより先に、「何をもって成果とするか(コスト削減か、顧客維持か)」を明確にする。

  3. “痛みの共感”から始める
     現場・経営・顧客がそれぞれ感じている“痛み”を可視化し、そこをAIでつなぐ構想を描くことが、最初の成功ステップ。

まとめ ─ AI投資を「報われるもの」に変えるために

AIを導入すること自体が目的ではありません。

Neuron7が示すように、AIは“ビジネスケースを実現するための手段”にすぎません。

企業がすべきは、「AIで何を効率化するか」ではなく、「AIでどんな価値を創出するか」を設計すること。

その設計こそが、“Build AI Business Case”です。

DXの成功は、技術選定の巧拙ではなく、問いの立て方と共通言語の設計力にかかっています。


👉 次回のNews Letterでは、この内容を踏まえ、「サービス部門をコストから価値へ ─ AI投資を報われるものにする“経営の視点”」をテーマに、AI投資のROIを“価値のROI”に変える具体策を解説していきます。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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