生成AIは属人化を解決できるのか?─方針立案編の入り口として

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

これまでPart1「診断編」では、属人化・暗黙知・ナレッジの活用不足など、フィールドサービスDXが進まない典型的な要因を整理してきました。

今回からは「方針立案編」として、その壁をどう越え、どの方向に進むべきかを考えていきます。

まず冒頭に確認しておきたいのは、生成AIがすべてを解決する“魔法の杖”ではないという点です。

AIには多様な技術領域があり、それぞれに得意・不得意があります。

生成AIもその一つにすぎず、「生成AIを使えば属人化がなくなる」という単純な話ではありません。

では実際に、どのようにサービス領域でのAI活用が進んでいるのか、海外での新たなアプローチを取り上げてみたいと思います。

海外ベンダーの新しいアプローチ

近年注目されているのが、米国の Neuron7.aiAquant です。両社は「属人化をどう打破するか」という同じ課題に取り組みつつ、アプローチが大きく異なります。

  • Neuron7.ai 「AIが最適な問題解決経路を自動で導き出し、確信度(confidence)を提示する」アプローチ。自然言語理解で検索・解決経路を導き出し、信頼度スコアを付与。現場担当者は従来の手法を使いながら、AIが“ガイド”として伴走する形です。

  • Aquant 「熟練者の判断基準や暗黙知をデータ化し、誰でも同じ判断ができるようにする」アプローチ。RAG(Retrieval-Augmented Generation)を拡張した RAC(Reasoning + Action + Context) を採用。確率的な回答ではなく、「熟練者ならどう考えるか」を理由付きで提示し、属人知を組織知へと変換します。

Neuron7=ガイド型、Aquant=翻訳型

両社の特徴を整理すると、以下のように表現できます。

  • Neuron7:現場担当者が従来のやり方をベースにしつつ、AIがガイド役として「最適経路+確信度」を提示。

  • Aquant:ベテランの判断ロジックそのものをAIが翻訳し、組織全体で再現できるようにする。

つまり、Neuron7は「現場のスピードを支える伴走型」、Aquantは「組織標準をつくる翻訳型」といえるでしょう。

共通の示唆:属人知を“問い”に変えること

両社のアプローチは異なりますが、共通している示唆は明確です。

それは、「属人知を単に記録するのではなく、組織として“問い”に変換し、再利用可能にすること」です。

  • Neuron7は「どの解決経路が最も確からしいか」を問い、現場での即時判断を助ける。

  • Aquantは「ベテランならなぜそう判断するのか」を問い直し、再現性ある組織知に変える。

どちらも、単なる効率化ツールではなく、「属人化を打破し、価値に転換するための仕組み」として機能しています。

日本企業にとっての示唆

Neuron7とAquantを取り上げましたが、筆者としてはどちらが優れている、というお話をしたつもりはありません。

読者の皆さんにとって重要なのは、「どちらの型が自社に合うか」(もしくは、どちらの型が提案先に合うか)を見極めることです。

  • 「現場裁量が大きく、スピード重視」の文化なら、Neuron7のガイド型が親和性を持ちやすい。

  • 「品質標準化を徹底し、属人依存を排除したい」企業には、Aquantの翻訳型がフィットする。

そして忘れてはならないのは、生成AIそのものが目的ではなく、自社の制約条件を突破するための“方針立案の選択肢”にすぎないということです。

まとめ──AIは手段、属人化解消は目的

今回のテーマでお伝えたしかったのは、「生成AIは属人化を解決できるのか?」という問いは、実は「属人化を解消するために、どんな問いを立て、どんな仕組みを設計するか?」に置き換えられるべきだということです。

AIはあくまで“伴走者”であり、“翻訳者”です。

真の目的は、属人化の壁を越えて、現場知を事業全体の価値に転換すること。


次回以降は、この“方針立案編”をさらに深掘りし、日本企業がどのように「自社に合った型」を選び取り、DXを進めるべきかを考えていきたいと思います。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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