方針立案の第一歩 ─ “ありたい姿”をどう描くか

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

前回Part1では「制約条件をどう見極め、どこから改善すべきか」現状の診断を扱ってきました。

今回から本格的にPart2「方針立案編」に入ります。

まず最初のステップは、「ありたい姿」をどう描くか、です。

改革の議論が進むと、どうしても「どのシステムを入れるか」「どの機能から実装するか」といった手段の話に引っ張られがちですが、本来の出発点は“将来どうなりたいのか”を明確にすることです。

ありたい姿が曖昧だと起こること

私の経験上、多くの企業がつまずくのは「現状の課題解決」と「ありたい姿」の混同です。 たとえば…

  • 「承認に時間がかかっている → 承認フローを自動化しよう」

  • 「作業手順が散らばっている → ナレッジシステムを入れよう」

これらは間違いではありません。しかし、

  • 「承認が早くなった結果、顧客対応のスピードがどう改善されるのか?」

  • 「ナレッジを入れた結果、サービス部門をどう位置づけたいのか?」

といった全体像が抜け落ちているため、局所改善で止まり、全体成果に波及しないのです。

制約思考から“ありたい姿”を逆算する

第10回でお伝えした「制約思考」の考え方を思い出してください。

制約を見極めて改善することは重要ですが、そこからさらに一歩進めて「制約を突破した先にどんな姿を実現したいのか」を定義することが、方針立案の第一歩です。

具体的には、次のような問いを立てると有効です。

  • 顧客から見て「選ばれるサービス部門」とはどういう状態か?

  • 経営から見て「投資すべき部門」とはどのような姿か?

  • 現場社員から見て「働き続けたい現場」とは何か?

これらを同時に満たす理想像を描き、そこから逆算して改革を設計していくことが重要です。

なお、最大の制約を特定・改善することは“ありたい姿”に最短で近づくための前提であり、投資の優先順位もこの整合で判断することが重要です。

ありたい姿を描くときの3つの視点

私が現場支援でよく使うのは、以下の3つの視点です。

  1. 顧客視点(CX)

    • 顧客が問い合わせてから解決するまでの体験をどう変えるか?

    • 「スピード」「透明性」「安心感」のどれを最優先にするか?

  2. 現場視点(EX)

    • 技術者が効率的かつ安心して働ける環境とは?

    • 「属人化解消」「情報アクセスの容易さ」「育成スピード」のどこを伸ばすか?

  3. 経営視点(BX)

    • サービス部門をどう位置づけたいか?

    • 「コスト削減部門」ではなく「収益部門」へ転換できるか?

これらを一枚の図(カスタマージャーニーやバリューチェーン)に落とし込むと、方針が具体化されやすくなります。

これらの問いで未来像を言葉にしたうえで、次章のように“体験の質”を数値化された体験へ落とし込むことで、現場と経営の共通言語になります。

“体験”を指標に翻訳する

これらの問いを描いただけでは、組織間での共通言語になりにくい。 重要なのは、“体験の質”を 数値化された体験 として表現することです。

  • CXなら「問い合わせから解決までの平均リードタイムを◯%短縮」

  • EXなら「新人が独り立ちするまでの育成期間を半年から3か月に短縮」

  • BXなら「サービス契約更新率を◯ポイント改善」

このように定量化することで、現場・経営・顧客の三者が同じ方向を見られるようになります。

数字そのものが目的ではありません。まず体験の質を言葉で定義し、その指標化として数字を添えるイメージです。

海外事例に見る「ありたい姿」の描き方

米国のある産業機械メーカーでは、「一発解決率(FTFR)」を顧客体験の軸に据えました。

すべての改革施策は「初回訪問で解決できる確率を高める」ことに直結するかどうかで判断。

結果、導入したのはナレッジシステムや承認プロセス改革だけでなく、部品供給の体制改善や顧客教育にまで広がりました。

この事例から学べるのは、ありたい姿を「数値化された体験」として定義すると、手段の選定がぶれないということです。

ここでの肝は、“ありたい姿(体験)→指標→施策”の因果を崩さないことです。

まとめ ─ 共感できる未来像から始める

“ありたい姿”を描く第一歩は、CX・EX・BXの3つの視点からの問い直しです。

そして、それを「数値化された体験」として共有することで、現場と経営が同じゴールを見据えられるようになります。

DXの投資が「効率化止まり」で終わるか、「価値創出」につながるかは、この第一歩にかかっています。

👉 次回は、この数値化された体験を満たす順番をどう設計するか──ユースケースの優先度と改革シナリオの描き方を具体化します。


次回以降は、この“方針立案編”をさらに深掘りし、日本企業がどのように「自社に合った型」を選び取り、DXを進めるべきかを考えていきたいと思います。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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