FSMソリューション、どれを選ぶべきか? ─ 機能比較ではなく、課題接続で考える

FSM(フィールドサービス管理)領域で提案を続けていると、必ずといっていいほど聞かれる質問があります。

「結局、ウチは、どのソリューションを選んだらいいの?」

みなさんは、このオブジェクションに、普段どのように答えていらっしゃいますか?

デモを見ればどれもよくできている。 PoCをやっても「だいたい実現できそう」。

最終的には、「価格」と「ブランド/プラットフォーム」で決まる ─ そんな結末を経験された方は多いはずです。

確かに、プラットフォームを統一することには合理性があります。 データ連携の手間が減り、認証・権限管理が簡素化できる。

監査やセキュリティの観点でも理にかなっています。 さらには、ソリューションベンダーの戦略がそうなってしまっている。

しかし、その一方で、私は何度か見てきました。

「現場の本質的な業務改善の議論は置き去りのまま、“なんとなく統一したほうが良さそう”という雰囲気」で決めてしまい、結局、運用が回らずに、使われない、または当初想定の一部しか使われないシステムが出来上がるのを。

プラットフォーム統一は戦略ですので、それ自体を否定するつもりは全くありません。

しかし、"思考停止の統一"はリスクです。

業務的なバリューと、IT/TCO的なバリュー。 その両面から、一度立ち止まって考える必要があります。


機能比較が「機能しない」時代

主要なFSMソリューションの機能差は、その進化(買収含む)により、もはやほとんどありません。

スケジューリング、ナレッジ、モバイル、在庫情報、ポータル── 各ソリューションのカタログスペックは似通い、「〇〇もできる」「△△も可能」と横並びです。

さらに厄介なのは、評価者の視点がバラバラであること。

現場は操作性を、管理はROIを、情シスは整合性を、財務は投資回収を重視する。

同じ機能でも、見る角度が違えば価値も変わる。

結果として、「比較しやすい項目」だけが議論され、「解くべき課題」そのものが置き去りになります。


課題接続で考える

ここで必要なのは、“機能中心”から“課題中心”への視点転換です。

機能は目的ではなく、課題を解く手段にすぎません。

たとえば「自動スケジューリング」は、「初回修理完了率(FTFR)を改善するための仕組み」と翻訳する。

「ナレッジ共有」は、「研修コストを抑え、作業品質の再現性を高める仕組み」と言い換える。

このように、顧客KPIと結線された説明をすることで初めて、機能が“意味を持つ”のです。

FSM導入の目的は“見える化”ではありません。

本当のゴールは、“流れの最適化”。 データをつなぐことではなく、現場から経営までの“詰まり”を取り除くことです。


「プラットフォーム統一」で決まる構造

いま、ソリューション選定の現場では「プラットフォーム統一だから」で結論づけられるケースが急増しています。

確かに、社内認証の共通化やITスキル再利用、監査対応など、合理的な理由も多い。

しかし、問題は「なぜ統一するのか」が十分に議論されないまま、 “統一=正義”という空気が流通してしまうことです。

たとえば、既にCRMやERPがあるから、FSMも同じベンダーに統一しよう──。

理由は「そのほうが便利そう」「社内説明が楽そう」。

でもその結果、業務適合を犠牲にしてTCOが膨らむことは珍しくありません。

「プラットフォーム統一」は、手段のはずが目的化しやすい。

重要なのは、統一か非統一かではなく、 「どの構造を重視するか」を言語化することです。


提案側には“自由度がない” ─ ではどうすべきか?

ここで、提案ベンダーとしての現実に戻りましょう。

「自社が担ぐ製品で提案するしかない」「プラットフォームは決まっている」── 多くの方がそう感じていると思います。

その通りです。提案側には、製品を選ぶ自由は、実はほとんどありません。

しかし、語り方を設計する自由は残されています。

つまり、同じプラットフォームを扱っていても、 「どんな課題構造にどう接続させて見せるか」で、提案の印象はまったく変わるのです。

たとえば:

  • 「このプラットフォームでしかできません」ではなく、
    → 「このプラットフォームなら、御社のこの制約構造をこう変えられます」と語る。

  • 「統一するメリット」ではなく、  
    → 「統一しても失われない業務柔軟性」を示す。

  • 「どの機能を入れるか」ではなく、  
    → 「どの詰まりを取るために、どの機能を使うか」を説明する。

SEやプリセールスの役割は、“選定者”ではなく“翻訳者”です。

プラットフォームの言語を、顧客の課題連鎖の言葉に変換して伝える。

その翻訳ができる提案者こそ、選定自由度のない市場でも差別化できる人材です。


顧客に投げかける6つの問い

製品を変えられなくても、顧客の思考は変えられます。

RFIやRFPのコメント欄に、次のような問いを一文添えるだけで十分です。

  1. 統一による現場KPIの改善は、どの指標で測れますか?

  2. 統一でなければ実現できない要件は何ですか?

  3. 逆に統一が妨げる業務要件はありませんか?

  4. 3年TCOで見た場合の差はどれほどですか?

  5. データの重心(Data Gravity)はどこにありますか?

  6. 将来的に混在や入替の余地を残せますか?

これらは単なる質問ではなく、顧客に立ち止まらせる仕掛けです。

思考停止の「統一選定」から、“構造で考える選定”へ。

そのきっかけを作るのは、提案ベンダー自身の設計力です。


まとめ ─ 提案ソリューションを変えられなくても、構造は語れる

FSMソリューションの選定で本当に問うべきは、 「どれが一番できるか」ではなく、「どの構造を変えられるか」。

機能比較では差がつかない時代、 “担ぐ製品は同じでも、語る構造は違う”

顧客の思考停止に付き合わず、構造を翻訳して見せられるベンダーが、 最終的に“選ばれる側”になります。

👉 次回第10回では、ここで触れた“翻訳を再現可能にする設計思想” ─ 「提案勝率を高める“再現設計”」へとつなげます。


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