FSM提案で現場部門を巻き込むためのアプローチ ─ “協力者”をつくるのではなく、“推進者”を育てる
FSMやアフターサービスDXの提案において、現場部門をどう巻き込むかは、提案の成否を大きく左右するのは、読者の皆さんは十分にご認識されていると思います。
しかし多くの場合、「現場ヒアリングができなかった」「IT部門に止められた」「忙しいから難しいと言われた」と、うまくいかなかった経験をお持ちではないでしょうか。
私自身の経験からしても、ベンダー側から現場を巻き込むことは、そう簡単なことでではありません。
だからこそ、“巻き込み”もまた設計の一部として考える必要があります。
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現場巻き込みは「設計」で仕込むもの
現場をプロジェクト開始後に呼び入れても、“参画した感”はあっても“自分ごと化”になるまでは、時間がかかるのが常ですし、それでは巻き込み度合いは弱いままです。
提案段階から現場が関与していないと、プロジェクト開始後やUAT実施の際に「思っていたのと違う」「現場の運用が追いつかない」という反発が生じます。
だからこそ、RFI、できれば検討段階から現場メンバーを巻き込むことが重要です。 その早期関与がもたらす効果は次の三つです。
”自分ごと化”が前倒しで進む 現場の“痛み”を拾って提案書の冒頭に反映すると、「これは自分たちの案件だ」と認識してもらえる。 稟議後に説得するより、事前に納得を育てる方が”説得コスト”は圧倒的に低い。
“稟議優先の副作用”を抑えられる 管理・IT主導で進むと、机上の最適化に偏りがち。検討段階から現場が関わることで、実務の制約(詰まり)が議論の芯に残る。
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デモの焦点が定まる 華美な未来像ではなく、“明日の仕事”を再現する共演型ミニデモに自然と寄っていく。これは導入後の定着を加速させる基盤になります。
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要するに、「現場巻き込み」はプロジェクトのタスクではなく、提案設計の一部なのです。
現場アクセスが得られないときに、どう動くか
とはいえ、現実にはRFIを出した企業側で現場がまだ巻き込まれていないことが多い。
「IT主導で進めている」「現場は多忙で…」といったオブジェクションは日常茶飯事です。
では、そのときベンダー側はどう動けばいいのか?
その場合は、正面突破よりも、買い手支援(Buyer Enablement)の発想が有効です。
目的は「ITを飛び越える」ことではなく、検討チームやITが社内説得しやすい材料を提供すること。 そのためには、相手の状況に応じて選べる打ち手を準備します。
▷ 現場アクセスの“5段階オプション”
直接ヒアリング(1時間程度 × 少人数)
代理ヒアリング(IT/検討メンバーが、ベンダーからの質問リストに対する現場の声を持ち帰る)
共演型ミニデモ会(現場キーマン(ITリテラシー高め)が操作、ベンダーが伴走)
非同期収集(簡易フォームや短尺動画で困りごと共有)
データからの仮説構築(チケット・FAQ・KPIなどから“仮想現場”を構築)
最初から「どれでもOKです。御社のやりやすい形を選んでください」と提示すると、心理的ハードルが下がります。
これは、現場の負荷を減らすだけでなく、検討チームやIT部門にとっても社内を”回しやすくなる”配慮でもあります。
▷ 現場を巻き込むための“申し出”の仕方
「現場に会わせてください」ではなく、
「現場の稼働を止めずにRFPの手戻りを減らすためのXX分(30分〜長くても1時間)の確認をお手伝いさせてください」
と伝えるのが効果的です。
また、提案メールに次のような一文を添えると通りやすいでしょう。
現場負荷を最小化するため、5つのオプションをご用意しました。 いずれも30分〜1時間以内で完結します。 どの方法をお選びいただいても、RFP回答には「現場前提の記述」(運用・変更管理・稟議1枚サマリー)を付録として添えます。
“共演型ミニデモ”の活かし方
直接ヒアリングが難しくても、共演型ミニデモは実現しやすい手です。
1シーン(例:アラート発報→作業指示作成→差配→現場作業実施→クローズ)を15〜20分で再現し、 操作のつまずきごとに「普段ここで何が起きますか?」と一言尋ねる。 これだけで、机上では拾えない“運用の詰まり”が出てきます。
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その結果を「現場の声メモ(5行)」「運用前提のラフ(3項目)」「稟議1枚サマリー草案」にまとめて返す。
これを検討チームやIT側に渡すと、「現場の声を拾ってくれるベンダーだ」と印象が変わります。
現場アクセスが完全に封じられた場合──“仮想現場”を作る
それでも現場に会えないなら、現場をデータで再現します。
過去チケット・作業指示、部品出庫履歴、再訪率などを分析し、頻度×影響で上位3事象を抽出。
それぞれの因果鎖(例:割当遅延→FTFR低下→再訪→顧客不満)を作り、 現場KPI→管理KPI→財務KPIの結線表を1枚添えます。
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RFP回答ではこう添えるのが誠実です。
現場ヒアリングができない前提での仮説モデルです。御社で事実確認いただければ、採択後の手戻りを最小化できます。」
誇張せず、透明性で信頼を得る。 この“誠実な仮説提示”こそ、ベンダーにできる最も現実的な支援です。
それでも却下された時の「誠実な撤退ライン」
全てのオプションが受け入れられなかった場合、No-bid(提案辞退)も選択肢の一つです。
「現場前提の確認が皆無だと、採択後に御社の現場にご迷惑が及ぶ可能性が高いため、今回は見送らせてください。」
こうした誠実な撤退は、短期的な商機を失っても、中長期の信頼を得られる可能性があります。
Noと言うことはなかなか難しいとは思いますが、一方で、現場巻き込みが不十分な取組・プロジェクトはかなりの確率で遅延・炎上することがあると、経験値としてコメントしておきます
まとめ ─ 現場巻き込みは“お願い”ではなく、“設計”で仕込む
FSM提案で現場が動かないのは、彼らが冷たいからではなく、最初から関与していないから。
だから、RFI→RFPの前工程で仕込み、検討チームやIT部門の味方として動くことが現実的。
「選択肢・短時間・代替策」の三点セットで、巻き込みを設計する。
現場に会えない時は“仮想現場”を作り、顧客データに基づく仮説を提示する。
提案の本質は、顧客を動かすことではなく、顧客が社内を動かせるように支援することです。
それができるベンダーが、最終的に“選ばれる”側になります。
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