提案が通らないのはなぜか?──稟議プロセスから逆算するFSM・アフターサービスDX

FSM(フィールドサービス管理)やアフターサービスDXの提案をして、「これはいい!」と現場の担当者に評価されたのに、いざ稟議に上がると途中で消えてしまった──そんな経験はないでしょうか。 私自身、初期の頃何度かそうした悔しい思いをしたことがあります。

提案そのものが悪いわけではありません。

問題は、提案が 承認経路(ルート)と審査基準(ルール)の両方に合わせて設計されていないこと。経路を先に把握し、基準で語る。これが欠けると、良い提案でも通りません。

本記事では、なぜ提案が稟議で落ちるのかを整理し、稟議プロセスから逆算して提案を設計する視点をお伝えします。


なぜ提案は稟議で落ちるのか

顧客の現場担当者は「これで決まりだ」と思っていても、稟議の途中でハシゴを外される。机の上で資料が消える。 こうした現象が起きるのは、提案が論理的でも、「経路」に沿っていない/「基準」で語っていない──そのどちらか(多くは両方)が原因です。

稟議は敵ではなくルールブック。ルールを読まずに挑めば、負けるのは当然です。


機能提案だけでは稟議を突破できない理由

多くのFSM提案が失敗するのは、機能紹介に終始してしまうからです。

競合も同様の機能を訴求できるため差別化にはならず、承認段に入ると各部門のゲートで止まります。

例えば:

  • 管理部門:「その機能でROIはどう変わるの?」

  • 情報システム:「既存システムにどう組み込むの?」

  • 財務部門:「投資回収は何年?」

  • 経営層:「会社の戦略にどうつながるの?」

機能の羅列では、これらの問いに答えられません。結果として、どんなに立派なソリューションでも、机の上で消えてしまいます。

必要なのは「何を何に変えるのか」──As-Is→To-Beの変革シナリオです。その後、機能はその“手段”として位置づける。単なる機能の寄せ集めではなく、業務や組織がどう変わるかを示す。これが稟議を突破するための(最低)前提条件です。


典型的な稟議プロセスの流れ

日本企業の稟議は、ほぼ例外なく複数部門を経由します。

  1. 現場部門:課題感を持ち、改善提案を発案

  2. 管理部門/経営企画:ROIやリスクを精査

  3. 情報システム部門:既存システムとの整合性やセキュリティ要件を確認

  4. 財務部門:費用対効果や投資回収期間を審査

  5. 経営層:全社戦略との整合性、リスクの有無を確認

重要なのは、各関門が見るポイントがまったく違うということです。

近年はCFO関与度合いが強まる傾向があるようです(国内でも大型投資ほど顕著)。


各関門で実際に飛んでくる“突っ込み”

提案を稟議に載せると、必ず次のような質問が飛んできます。

  • 現場部門:「これで本当に工数が減るのか?」

  • 管理部門/経営企画:「ROIは?数字で説明できるのか?」

  • 情報システム部門:「既存システムにどうつながる?保守負荷は?」

  • 財務部門:「投資回収は何年?他部門の案件より優先すべき理由は?」

  • 経営層:「会社の戦略にどう効くのか?リスクはないのか?」

ここを想定しない資料は、必ず途中で止まる ― 経験則です。


現実は“二段構え”:RFP回答→社内説得(稟議添付・役員説明)

実務では、提案側(ベンダーサイド)が作る提案書はRFPへの回答です。

そこでのセレクションを経て、ようやく社内決裁向けの説明資料(稟議添付・役員説明用)が動きます。

私が過去に関わった大手製造業向けの大型案件でも、部門長が担当役員を回るための社内説明資料をこちらで用意し、「A3両面1枚で全ての担当役員(最後は副社長)に説明できる」構成にしました。

RFP回答はゴールではなく、社内説得のスタートライン

だから最初から“別腹(稟議用)”を見据えて設計するだけで、通過率は大きく変わります。

――この“ズレ”を埋めるのが、RFPと稟議の二段構えです。

実務パッケージの例

  • RFP回答:(割愛)

  • 稟議添付(各1枚)

  • 役員説明トーキングポイント:役員別FAQ × 10

要するに、RFPで選ばれる資料と、社内を通す資料は役割が違う。

前者は要件充足、後者は関門別の“言語”で語る設計が必要です。


稟議から逆算して提案を設計するステップ

稟議を通すためには、逆算の発想が不可欠です。

  1. 承認の流れを把握する  顧客にヒアリングし、どの部門が関与するのかを確認する。

  2. 各部門が重視する指標を整理する  現場=工数削減、管理=ROI、情シス=整合性、財務=回収期間、経営=戦略整合性。

  3. 提案書を“別腹”で用意する  プレゼン用と稟議用は目的が違う。稟議資料は「熱量ゼロでも通る」設計が必要。

  4. 決裁通過をシミュレーションする  各関門で「この資料で通るか?」を事前に検証する。


提案に“付加価値”を加えられる人の役割

提案書を作るのは多くの場合SEですが、実際にはSE以外の立場でも、この役割を果たす人が存在します。

  • 現場の言葉を関門の“基準語”に翻訳する

    例:工数削減=ROI金額、システム連携=運用負荷低減、といった言い換え

  • RFPと稟議“二段構え”を設計し、通る資料に仕立てる

    私は営業/コンサルの立場として、SEが作った提案書の文言をレビュー・リライトし直すこともありました

  • 変革シナリオ(As-Is→To-Be)に機能を正しく位置づける

    機能の羅列ではなく、「何を何に変えるのか」というストーリーを提案書に織り込む

立場にかかわらず “翻訳とシナリオ設計” をできる人材が、提案の勝ち筋を決めるのです。


まとめ

  • 提案が通らないのは内容が悪いのではなく、稟議プロセスを無視しているから

  • 機能提案に終始すると、各部門のゲートに引っかかり、提案は消える

  • 必要なのは「何を何に変えるのか」というシナリオを最初から含めること

  • 稟議は敵ではなくルールブック。ルールを読んで逆算すれば、突破は可能になる


YMGアドバイザリーは、勝率95%を実現してきた「勝ち筋設計」を軸に、提案戦略・デモシナリオ構築・ROI算定をご支援しています。

DX提案の全体設計に悩まれている方は、ぜひ一度ご相談ください。

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