FSM・アフターサービスDXのROIを稟議で通すための方法
FSM(フィールドサービス管理)やアフターサービスDXの投資は「重要」と理解されても、稟議で止まるケースが多いのはなぜでしょうか?
最大の理由は「ROIが経営目線で翻訳されていない」ことにあります。
本記事では、効率化・リスク低減・機会損失防止という3つの視点から、提案側が稟議突破を支援する具体的な方法を解説します。
なぜサービスDX投資は稟議が通らないのか
サービス部門は日本企業において「コストセンター」と見なされがちです。(プロフィットセンターであったとしても) 営業や製造に比べ投資優先度が低く、「効率化」や「省人化」といった幅広のテーマがなければ、稟議で弾かれてしまうことも少なくありません。
つまり、現行でも業務は回っているし、ROIが曖昧=投資不要と判断されるのが実態です。
「便利そうだが、売上に効く証拠はあるのか?」と問われた瞬間に稟議が止まる──これは日本の、特にアフターサービスIT投資における稟議文化に根付いた特徴です。
ROI算定に必要な3つの視点
ROIを稟議で通すには、次の3つの視点を盛り込むことが重要です。
1. 効率性の向上
作業工数削減、処理時間短縮、人員配置の最適化
稟議で最も評価されやすい「確実に見える効果」
2.リスク低減
リスクは数値化が難しいとされがちですが、以下のように換算可能です。
規制違反・罰金回避
例:労働安全規則違反による罰金額、行政指導に伴う操業停止日数×日売上
SLA違反・ペナルティ回避
例:保守契約での遅延による返金額(契約件数×違約金単価)
社会的評価棄損
例:大規模障害時の報道 → 顧客離反率や株価下落率を過去事例から推計し、売上インパクトを試算
労務リスク回避
例:過重労働による労災認定/訴訟費用(発生確率×平均支払額)
欧米ではこれらを「罰金回避額」「逸失売上回避額」としてROIに組み込むのが一般的です。 日本では精緻な算定が難しいケースも多いため、定性的効果として補足するだけでも稟議資料の説得力が高まります。
3. 機会損失の防止
「売上を伸ばす」と言うと日本企業では懐疑的に受け止められがちですが、「失っている売上を守る」=機会損失防止という表現なら受け入れられやすいです。
修理遅延や部品欠品による契約解約の回避
初回修理完了率向上による追加受注逸失の防止
「攻めの売上拡大」ではなく「守り寄りの売上保全」として稟議に載せられるのがポイントです。
事業会社が稟議で見ているポイント
実際に稟議を審査する立場は、「確実に見える効果」を最優先でチェックします。
そのため、提案側が「売上が上がる」と強調しても、「どう証明するのか?」という反応が返ってくるのが常です。
しかし「解約を防ぐ」「既存顧客を維持する」といった文脈なら現実味があると評価されやすい。
したがって、提案側は 確実性の高いコスト削減+現実感ある機会損失防止 を両輪で示すのが効果的です。
提案ベンダーがROI突破を支援するステップ
では、ベンダー側は具体的に何をすべきか。
ROIモデルを「代わりに作る」ことではなく、顧客の稟議を突破できるよう翻訳と伴走を行うことです。
現場データを定量化
工数、稼働率、初回修理完了率など、実際に顧客側で計測されたデータをベースにする
経営指標に翻訳
工数削減=コスト削減額 - 解約防止=逸失売上の回避額 - リスク低減=罰金・違約金の回避額
Before/Afterをシナリオ化
「現状の課題 → DX導入後の改善 → 数字インパクト」の流れでストーリーを構成する
リスクと前提条件を明示
「この効果は部品調達リードタイムが維持できた場合」といった条件を添えることで、稟議資料の信頼性が増す
海外事例に学ぶROI突破のヒント
欧州メーカーの事例では、顧客維持率をわずか3%改善するだけで、年間数十億円規模の「解約防止額」としてROIを提示し、承認を勝ち取りました。
米国のユーティリティ企業では、作業効率化を「規制遵守・罰金回避」と結び付け、投資を承認させています。
日本との違い
海外ではROIモデルを作るのは基本的に顧客側(導入側)です。 自社の事業目標・業務KPIと直結しているからこそ、説得力があります。
ベンダーは「他社事例や経験値から、参考になる視点を示す」役割に留まることが多い。 逆にベンダー主導でROIモデルを作ってしまうと、発注者の事業目標と噛み合わず、「綺麗事の数字」と受け取られる危険があります。
👉 日本企業の場合、業務KPI自体が明確でないことも多く、その条件下でベンダーがROIを作ろうとすると机上の空論になりがちです。
学ぶべきは「海外と同じく顧客が主体的にROIを作る姿勢」であり、提案ベンダーはその「翻訳と気づきの提供で伴走する」ことに価値があります。
まとめ
サービスDX投資が稟議で通らない最大の理由は「ROIが経営目線で翻訳されていない」から
日本企業では「売上増加」ではなく「コスト削減・リスク低減・機会損失防止」が評価されやすい
ROIモデルは本来、顧客が主体的に作るべきもの
提案ベンダーは、ROIを「代わりに作る」のではなく、「翻訳と気づきを提供して伴走する」ことが求められる
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