提案に負け続けるベンダーが気づいていない3つの盲点─FSM提案の勝率が上がらない本当の理由
「なぜ、うちの提案は通らなかったのか?」
この問いに、明確な答えを持てる人は意外と少ないのではないでしょうか。
多くのベンダーや提案書作成担当者(SEさんが多いと思います)は、「他社が安かった」「関係性があった」「予算がなかった」「あの機能オプションはウチのにはなかった」といった外的要因を口にするのではないでしょうか。
しかし、提案が落ちた本当の理由の多くは、自分たちの“内側”にあります。提案活動を繰り返すほどに、その構造的な盲点が深く根を張っていくのです。
今回は、外的要因ではなく、内的要因(提案設計不足)に焦点を当てますが、自己責任論を振りかざすわけではありませんので、安心してお読みください
盲点①:提案プロセスを「提案書作成」だと思い込んでいる
提案をドキュメント作成と同義で捉えてしまう担当者は少なくありません。 実際、多くの企業では提案=資料づくりになっており、提出期限に向けてスライドを整えることが目的化してしまっています。
しかし、勝てる提案を見ていると、決まってその裏に「設計」があります。
つまり、提案書を書く前にどんな筋道で、どんな順序で、どんな言葉で納得してもらうかを設計しているのです。
「提案書を整えたのに響かない」。その理由は、論理が整っているだけで“物語”になっていないからです。
単に「現場工数を削減します」では、管理層にも財務にも響かない。「現場の1時間削減が、請求サイクルを1日短縮し、キャッシュ回収を早める」―こうした経営言語への翻訳があって、初めて承認経路と審査基準に適合します。
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勝てる提案書回答担当者は、資料をつくる人ではなく、筋道をつくる人です。
現状の把握は詰まり(制約)の特定から。打つ手の順番は、ここで決まります。
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盲点②:顧客の言語ではなく、自社の言語で語っている
提案を読んだ顧客が、「これ、うちの話じゃないな」と感じる瞬間があります。それは、ベンダーが“自社語”で語っているからです。
機能や技術、仕組みの説明は丁寧でも、顧客のKPIやROIに結びついていない。
「この機能で何が変わるのか?」という問いに答えられていないのです。
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特に、SEさんが提案書をまとめる場合、この傾向が顕著です。
たとえば「自動割当」ではなく「サービスレベルを維持する再現性」と言い換える。「ナレッジ共有」ではなく「研修コストを抑え、初回完了率を上げる仕組み」と説明する。
こうした“顧客語への翻訳”が抜けると、提案はすぐに忘れられます。
顧客KPIから管理KPI、そして財務KPIへと線でつなげる――この結線思考が抜け落ちた提案は、どれほどデザインが美しくても“通らない”のです。
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多くの担当者が勘違いしているのは、「顧客の業務を理解しているつもり」になっていること。実際には、業務用語を借りて説明しているに過ぎません。
顧客の世界観の中で語れない限り、「自分たちが優れている」という説明は、どこまでも自己満足で終わってしまいます。
盲点③:「勝ち筋」を設計せず、案件ごとにリセットしている
もうひとつ、見落とされがちな盲点があります。
それは、提案を毎回スクラッチでやっていることです。
案件が来てから動く、資料を作りながら考える、競合が出てきてから差別化を検討する──これでは、勝率は安定しませんし、多くの場合、提案書と言いながら、中身は”機能要件に対する回答書”、になってしまっている。(読者の皆さん、心当たりありませんか?)
一方で、勝つチームには再現性があります。 それが、私たちが繰り返し提唱している「勝ち筋設計」です。
案件類型ごとに共通の構造を持ち、RFI期、RFP期、稟議期のどこで何を準備すべきかをパターン化している。
稟議逆算フローや関係者マッピングを事前に用意し、どの案件でも“筋肉記憶のある提案”を実現しているのです。
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「勝ち筋設計」とは、勝ちパターンのコピーではありません。 それは、「なぜ勝ったのか」を再現可能にする設計思想です。
落ちた提案の振り返りではなく、通った提案の構造分析。
再現性を意識した提案活動こそが、属人的な営業やSEのスキルをチームの資産に変えます。
まとめ ─ 外に敵を求めず、内を整える
提案が通らない理由を、外部要因で片づけるのは簡単です。
一方、外的要因を消すことはできませんが、設計を整えることは自分たちでコントロールできます。
提案の現場で本当に起きているのは、内部の設計不足です。それに気づければ改善可能です。
提案を“書く”前に“設計する”こと。 顧客語で語り、業務と財務を結線すること。 そして、勝ち筋を仕組みとして再現すること。
提案に勝つとは、相手を打ち負かすことではありません。 自社の提案力を構造的に進化させることです。
その一歩は、次の提案に向けて「どこでつまずいたか」ではなく、「どの設計が足りなかったか」を問い直すことから始まります。
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