現場プロセスにおける“詰まり” ー 真の制約はどこか?
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
第3回〜第6回に渡って、「属人化・暗黙知の継承→ナレッジ統合→業務への組み込み→組織での活用」という流れを通じ、現場力を底上げする道筋について、お話ししてきました。
しかし、そういった取り組みを行なっても、組織全体の生産性が思ったほど上がっていない、とお困りになっている企業があるのも事実です。
それはなぜなのでしょうか?
原因は、“ボトルネック(制約条件)”が他の場所にある、つまりナレッジ改革は、全体プロセスから見たときに制約条件ではなかったためなのです。
今回は、制約条件の見つけ方と、それを突破するための考え方を取り上げます。
制約条件の考え方
私が現場改善をご支援してきた中で繰り返し痛感するのは、どんなに優れたナレッジやツールを導入しても、その適用箇所が正しくなければ、業務全体の生産性はあがらないという事実です。
これはTOC(制約理論)というマネジメントの考え方に通じますが、
あらゆる組織活動においては、パフォーマンス(生産性向上)を制約・阻害するボトルネックが必ず存在する
そこを見つけ出し、集中的に改善しない限り、全体の成果は上がらない
要するに──業務の流れの中で一番の“詰まり”を特定しないまま、個々のプロセスを改善(部分最適化)したところで、全体的な生産性はあがらない、つまりスループットは向上しないということです。
しかし、業務の開始から完了までに、複数の組織や部門が存在し、それぞれにシステムやツールが導入されていると、どこがボトルネックになっているのか、何が制約条件なのか、なかなか”見えない”ことが多いのではないでしょうか。
データだけでは見えない“詰まり”
業務プロセス全体のパフォーマンスをKPIやレポートで追っても、制約条件が見えないことは珍しくありません。 気がついた頃には、すでに顧客満足度や収益への影響が出ている、といった経験はありませんか?
なぜそういったことが起こるのか?
それは、既存のKPIが、部門毎に(縦割りで)個別設定され、全体パフォーマンスを評価できる設計になっていないからです。
だから、悪い兆候が現れても、どこが悪いのか即座にわからない。
だからこそ、慎重な現場観察と、特定の部門だけでなく、その前後も含めた部門を横断したそれぞれの現場担当者との対話が不可欠になります。
例えば、フィールドサービスの典型的な業務プロセスを見てみましょう。
問診(顧客から症状や状況を聞く、機械の作動状況や異音を確認する)
診断(真因を特定する)
実作業(部品/基盤交換・調整・修理など)
報告・次対応手配
この中で、表面上は「診断」に時間がかかっているように見えても、掘り下げてみると実作業フェーズの情報探索が真のボトルネックだった、というケースが少なくありません。
実作業フェーズに潜む“詰まり”の例
現場では、ナレッジによる診断よりも実作業(準備)がボトルネックになることもしばしばです。
例えば;
部品特定に時間がかかる 装置の型式や仕様が古く、目の前の装置とパーツカタログの内容が一致しない。シリアル番号別の情報検索ができないので、この装置に装着可能な部品の番号を突き止めるだけでかなりの時間がかかってしまう。
作業手順の確認にも時間がかかる サービス/分組手順に関する情報が、ファイルサーバ・紙・システム・ベテランの頭の中といった複数の場所に、複数の形式で分散。追補でリリースされるブリテンが、どれが最新で、どれが今回の作業に該当するのかを解読するだけでも時間がかかる。
”待機”時間の存在
本社や所属拠点に、現場では解決・判断できない問題について支援を仰ぐため連絡し、その折り返し連絡を待っているが、いつ折り返しがあるかわからない。
現着後に部品不足が発覚 対応しそうな部品を可能な限り持ってきたが、どれも適さず再訪問となり、部品が揃うまで遅延。
作業承認のプロセスが煩雑 本社や顧客側の許可待ちで、次のステップに即進めず、実作業が後ろ倒し後ろ倒しになる。
これらは一見バラバラな問題に見えますが、共通しているのは**「必要な情報やリソースに適切なタイミングで辿り着けない」**ことです。 つまり、ナレッジやデータが存在しても、それを現場で即座に探せない・活かせない構造こそが“詰まり”なのです。
制約条件を特定するの視点
制約条件を見極めるには、開始から完了までの全ての作業ステップを洗い出した上で、以下のような視点で全体を分析することが有効です。
各作業ステップの”つながり”(依存的事象)
作業の流れ(組織間、または担当者間で仕事がどのように流れているか)
情報の流れ(それぞれのステップにおけるInput & Outputの関連性、情報の処理、及び次ステップへの伝達ツールやフォーマット)
同じステップにおける所要時間の”ばらつき”(統計的変動)
人材依存度(スキル、経験により、特定の人材しか対応できない、または処理時間に顕著な差がある)
顧客特性や季節性
制約条件の改善は一点集中で
個々の作業ステップ内の制約条件を、作業ステップ毎に、複数同時に改善しようとすると、効果が分散し、プロセス全体の改善には繋がりません。 プロセスにおける制約条件を1つ特定し、そこに集中的に手を打つことが重要です。
ある欧州の産業機械メーカーでは、実作業時の部品特定がボトルネックと判明。 そこで電子部品カタログとモバイルアプリを統合し、修理前に必要部品を特定できるようにしました。 結果、平均修理時間は30%短縮し、顧客満足度スコアも向上しました。
まとめ
現場改革の本質は、「一番詰まっているところを見つけ、そこを突破する。そして、そのプロセスを繰り返す」ことにあります。(※ボトルネックは、常に移動するため)
ナレッジの整備やDXの投資があっても、真の制約条件を改革しなければ全体は改善しません。
皆様の現場にも、まだ気づいていない“詰まり”が潜んでいるかもしれません。それを見つけることこそ、現場改革の第一歩です。
次回は、この制約条件をさらに掘り下げ、実作業フェーズでの課題発見の視点を、『現場で詰まる5つの“次の壁”──診断から作業完了まで』と題して具体的にご紹介します。
ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。
引き続きよろしくお願いいたします。