現場で詰まる5つの“次の壁”──診断から作業完了まで

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

前回(第7回)は「現場プロセスにおける詰まり──真の制約はどこか?」というテーマで、業務全体のボトルネックの見極めについてお話ししました。

今回はその続きとして、診断から実作業フェーズに移ったときに直面しやすい“次の壁”を整理します。

1. 情報が見つからない──「あるのに探せない」問題

診断で真因を特定したものの、「解決手順が分からない」と現場で声が上がる。 背景には、スキル不足ではなく、情報構造の問題があります。

  • 手順書や図面が複数システムに分散

  • 成果物単位で管理され、横断的に検索できない

  • 更新媒体がPDF・メール・通知とバラバラ

  • 「どれが最新か」分からない

結果として「情報はあるのに使えない」──現場ではベテランの勘頼み、という構造的課題が生じます。

2. 情報が最新でない──追補版の迷子

製造業の現場では、サービスブリテン(追補版)が頻繁に発行されます。

しかし届くのが遅れたり、管理の仕組みが不十分なために、旧版を参照して誤作業につながるケースが多発することも未だに多いと聞きます。

米国のある輸送機械メーカーでは、ブリテン遅延が原因で年間数百万ドル規模の保証費用が発生しました。

「本」単位での更新という制作側の論理と、「部位」単位での利用という現場の論理のギャップが、この問題を生み出しています。

3. 情報の信頼性が低い──個人解釈の混入

現場アレンジ(「ここは飛ばしていい」「代用品でOK」など)が常態化すると、品質のばらつきに直結します。

ベテランの感覚を100%伝えきれず、経験値の浅い若手が誤解してしまうことが背景です。

これは「標準化」と「ナレッジの言語化」で最小化すべきリスクです。

4. スキル格差が成果に直結する

実作業フェーズの特徴は、作業者のスキル差がそのまま成果の差となって現れるという点です。

  • 部品特定に要する時間が人によって2倍以上違う

  • 手順書を読んでもすぐ理解できる人と、確認に何倍もかかる人がいる

  • 調整作業で「感覚」に頼る部分があり、結果のばらつきが大きい

この格差がそのまま「一発完了率」「顧客満足」「再訪問コスト」に跳ね返り、

サービス収益モデルを崩すボトルネックになるのです。

5. 暗黙知が残る領域──“調整作業”の壁

特に難しいのは、調整作業に潜む暗黙知です。

部品交換や明確な手順がある作業とは異なり、
・「音の違い」
・「振動の具合」
・「機械の作動状態を見ての判断」
・「顧客の使用環境を見ての判断」
といった、数値化や文書化が難しいナレッジが必要とされる領域です。

ここを放置すると、結局は「ベテランしかできない」状態が続き、人材依存のリスクが強まります。

逆に、ここを体系化・標準化できた企業は、サービス品質の安定とスケーラビリティを実現しやすくなります。

これへの対処法については、第4回「ナレッジを組織で活かすには?を、再度ご一読ください。

まとめ──“気づく”ことが出発点

今回ご紹介した5つの壁は、どの現場でも一度は耳にする課題ではないでしょうか。

  • 情報が見つからない

  • 最新でない

  • 信頼できない

  • スキル格差

  • 暗黙知

これらは一見別々の問題に見えても、共通点は「ナレッジが適切に流れない構造」にあります。

制約条件は診断フェーズに限らず、実作業の中にも潜んでいます。

DXを“効率化”に留めず、サービス部門を価値創出の源泉に変えるためには、まず「現場の詰まりを正しく見つける」ことから始める必要があります。


次回は「現場だけを変えても変わらない──管理側の構造的制約とは?」をテーマに、マネジメント視点の課題を掘り下げます。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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