現場だけを変えても変わらない─管理側の構造的制約とは?
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
前回(第8回)は「診断から実作業フェーズに潜む5つの次の壁」を取り上げました。 現場の詰まりを可視化することがDXの出発点であることをお伝えしましたが、同時に、現場だけを変えても組織全体は変わらないという厳しい現実も見えてきます。
今回は、その背景にある 管理側の構造的制約 に焦点を当てます。
「現場は頑張っているのに成果が出ない」構造
現場改善プロジェクトに関わると、必ず耳にするのがこの言葉です。 「現場は新しいシステムを導入して頑張っているが、全体の効率は上がってない」
なぜでしょうか?
要因の多くは、管理側の構造的制約にあります。 現場に強力なツールが導入されても、管理側のルールや仕組みが旧来のままでは、全体最適に結びつかないのです。
管理側に潜む3つの制約
私の経験上、以下の3つが典型です。
KPIの分断 営業部門は「売上」、サービス部門は「コスト削減」、本社は「在庫回転率」──各部門が別々のKPIを追っているため、全体としては逆方向に動いてしまう。 結果、サービス部門が改善しても経営的には評価されないという矛盾が生じます。(稟議上申の際には、立派な数字を並べているのにも関わらず)
承認プロセスの遅延 現場が即応できる体制になっていても、部品手配・補充や契約内容の確認、それらの承認に時間がかかり、顧客対応が遅れる。 ボトルネックが「現場」ではなく「管理側承認フロー」にあった、というのはよくある話です。
投資優先度の誤解 まだまだ、「サービス部門=コストセンター」と見なされがちで、DX投資の優先度を下げる傾向にあります。 しかし実際には、サービス部門こそが顧客接点を持ち、継続収益や顧客維持に直結する戦略部門です。 この誤解が、現場を疲弊させる構造的制約になります。
海外事例に見る「管理側の改革」
海外では、管理側の構造改革を進めた事例が多数あります。
ある欧州の産業機械メーカーでは、サービス部門のKPIを「稼働率」「顧客満足度」「初回修理完了率(FTFR)」に再設計し、営業・開発と共通の指標にしました。 その結果、サービス現場の改善活動が経営成果に直結するようになり、社内の地位が大きく向上しました。
米国の日系工作機械メーカーでは、部品手配の承認プロセスをAI+ワークフローに置き換え、承認リードタイムを50%短縮。顧客対応スピードが飛躍的に向上しました。
これらの事例が示すのは、現場だけでなく管理側の制約も突破しなければ、DXは成果を生まないという事実です。
日本企業にありがちな「見えない制約」
日本企業の現場DXに関わると、次のような構造的制約をよく目にします。
経営層が「現場改善=現場の努力」と誤解し、全社課題として位置づけない
管理部門が「現場は数字を出せない」と思い込み、KPIの設計を任せない
部署間サイロが強く、情報共有が「縦割り」で止まる
これでは、どんなに現場が改善しても、成果が社内で評価されず、次の投資につながらないという悪循環に陥ります。
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まとめ──管理側の制約を突破する視点
現場だけを変えても成果が出ないのは、管理側の構造的制約が残っているからです。
KPIの分断
承認プロセスの遅延
投資優先度の誤解
これらを突破するには、経営層や管理部門に「現場改善がどのように収益や顧客満足につながるか」を翻訳し、共通の指標で語ることが欠かせません。
次回は、この「管理側制約をどう説得し、動かすか?」というテーマで、経営層・本社を巻き込む実践のヒントを具体的にご紹介します。
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