どこから改革すべきか─制約思考で見るフィールドサービスDXの全体設計
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
これまで9回にわたり、フィールドサービスDXが進まない理由と、その背後にある制約条件について整理してきました。
属人化・暗黙知の壁から、ナレッジの武器化、診断や実作業フェーズでの“詰まり”、さらには管理側の構造的制約まで ─ 現場改革が成果に直結しない理由は多岐にわたります。
では、数ある課題の中で、どこから手を付けるべきなのか?
今回のテーマは、制約思考(TOC:Theory of Constraints)の視点から見たフィールドサービスDXの全体設計です。
部分最適では成果が出ない
現場でよく見られるのは、目についた課題、流行りの問題から手を付けてしまうケースです。
たとえば、
AIベースのスケジューリングエンジンを導入する
モバイルアプリ(+モバイルデバイス)を配布する
ナレッジ管理システムを整備する
ARグラスを導入する
もちろん有効な手段ですが、”特定作業の「効率は上がる」”かもしれませんが、それだけでは全体の生産性は思ったように向上しません。何も変わらない、ことも往々にしてあり得ます。
その理由はシンプルです。
それは、真の制約条件に対して手を付けていないからです。
フィールドサービス業務全体を「流れ」として捉える
フィールドサービスのプロセスを俯瞰すると、以下のような流れになります。
問診(様々な角度からの症状確認:外見、作動音、熱、その他ヒアリング)
診断(真因の特定)
実作業(部品交換・調整・修理)
報告・次対応手配
KPI評価・改善フィードバック
どのフェーズ(もしくは、そのサブプロセス)にボトルネックが潜んでいるかは企業ごとに異なります。
診断が遅く人によってばらつきが大きい企業もあれば、承認フローが律速する企業もある。
全体の流れを見た上で、最大の制約箇所を特定し、そこに改善投資を集中させることが重要です。
制約思考で設計するフィールドサービス改革
制約思考をフィールドサービス改革に当てはめると、以下のステップで考えるのが有効です。
制約を特定する 現場観察・データ分析・担当者ヒアリングで「一番詰まっている箇所」を探す。
制約を最大限活用する 既存リソースでできる工夫を施す(例:承認条件を簡素化、知識共有の即席仕組み)。
制約に集中投資する システム投資や人材投入を優先するのは、この制約領域。
制約を突破したら、次の制約を探す 改革は一箇所一度で終わるものではなく、制約の移動に合わせて繰り返す。
海外事例:制約突破の連鎖
ある欧州メーカーでは、最初の制約は「部品特定」でした。
→ 電子パーツカタログとS-BOM(シリアル番号検索)システムを導入し、平均修理時間を30%短縮。
すると次に浮上した制約は「承認フロー」。
→ 承認プロセスを自動化してリードタイムを50%短縮。
結果として、一発完了率が大幅に改善し、顧客満足度が上がっただけでなく、サービス契約更新率の向上=収益拡大につながりました。
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まとめ──改善の“順番”が生産性を左右する
DX投資は「何を入れるか」ではなく、「どこから始めるか」が成果を左右します。
部分最適ではなく、制約思考で全体の流れを捉え、最大の制約から順に突破していく。
これが、フィールドサービス改革を「効率化止まり」にせず、収益と競争優位につなげるための唯一の道筋です。
次回からは、10回にわたってお届けしてきたPart1「診断編」を締めくくり、Part2「方針立案編」へと移ります。
皆様の現場改革においても、ぜひ「どこから改革すべきか?」を改めて考えるきっかけにしていただければ幸いです。
ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。
引き続きよろしくお願いいたします。