ナレッジを武器に変える ー サービス部門の価値最大化

お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。

前回まで3回にわたり、属人化・暗黙知の継承から、ナレッジの業務統合までをお話ししてきました。

本来であれば、前回で“ナレッジのテーマ”はひと区切りとなる予定でしたが、
多くの企業でDXの本質的な価値がまだ“効率化”にとどまっている現状を踏まえ、
ナレッジを使って、いかにサービス部門を“価値創出の源泉”へ転換するか?
という視点を、最後にもう一度掘り下げて、今回お届けしたいと思います。

なぜナレッジは「差別化の源泉」になり得るのか?

フィールドサービスにおけるナレッジ活用は、
これまで「熟練者の知見を共有・継承し、業務品質を均質化する」ために語られてきました。

確かにこれは重要ですが、それはどちらかというと**“損失の防止”**という守りの意味合いが強いものです。

一方で、サービス部門が持つナレッジには、本来
それ以上の可能性があることは、読者の皆様もお気づきのことと思います。

それは、**「顧客接点から得られるインサイト」**です。

たとえば:

  • ある機種で頻発している故障モードとその背景にある設計構造

  • サービス現場で得られた「未公開」使用条件やオペレーターの傾向

  • 顧客の言葉の端々から読み取れる「今後の使い方の変化」や「買い替えタイミング」

これらは製品開発・マーケティング・営業にとって、**“現場発のリアルな知”**であり、まさに競争優位のタネです。

「効率化止まり」のDXが、サービスの価値を狭めている

では、なぜこのようなナレッジが活かされていないのか?

理由はシンプルです。

現場ナレッジが、“収益を生む知”として位置づけられていないから

です。

多くの企業では、DX=業務効率化と捉えられています。 もちろん、これは必要なステップです。
しかし、それだけでは“コストセンターのまま”です。

私がこれまでお手伝いさしあげた企業の中でも、
現場改善に熱心でシステム導入も進んでいるのに、サービス部門の社内的な位置づけが変わらない、つまり

── 「売上や利益に貢献している」となかなか見なされない ──

というケースが多く見られます。

背景には、こうした構造的な誤解があります:

よくある誤解 本質的な問い
サービス部門は、故障を減らすためにある サービスは、製品価値を持続させる機能では?
ナレッジは、現場教育に使うもの ナレッジは、事業全体の判断と戦略に使えるのでは?
サービス業務は、ルーチンで十分 その現場での観察・判断こそが唯一無二では?

ナレッジの「武器化」には、組織的な“問い”が必要

現場で得られる知見は、断片的であるがゆえに価値があります。
しかし、その断片を活かすには、**組織がそれを“問い直す力”**を持たねばなりません。

たとえば、ある企業ではサービス報告書の中に毎回登場するフレーズ
── 「お客様の操作ミスによる可能性あり」──が、ある年を境に急増していました。

この現象に気づいた部門は、それが操作パネルの変更によるUIの問題であると仮説を立て、 設計部門にフィードバック。

結果として、製品の改良と同時に“顧客満足の向上”にもつながったという事例があります。

このように、現場の断片的ナレッジは意図的に拾い上げ、再構成するプロセスがあってこそ“武器”になります。

言い換えれば、

ナレッジを武器にできるかどうかは、「組織として、どんな問いを立てるか」にかかっている

のです。

Makino事例の“別の見方”:業務データが戦略資産になる瞬間

前回、ナレッジの継承と業務品質の向上を同時に進めていた、Makino USA社の取組みをご紹介しました。

今回改めてMakino USA社に注目したいのは、

この仕組みが「判断の高速化と再現性の担保」に寄与している

という点です。

  • 作業前の診断→判断→対応選択までの思考プロセスが可視化・共有されている

  • その蓄積がAIに学習され、若手技術者がベテラン並みの判断を早期に実現できる

  • 同時にその判断履歴がKPIとして集計され、マネジメント層に「判断の質」がフィードバックされる

ここで重要なのは、単に作業効率を高めたわけではないということです。

むしろ、「判断の質がKPI化され、全体最適の指標に取り込まれている」という構造が、
“ナレッジを価値に変える”プロセスそのものなのです。

自社の“知”をどう定義し直すか──問いの再設定を

ナレッジが業務の中で自然に活かされ、 それが経営判断や事業戦略とつながる ─ この状態に至るためには、まず**“知”の定義そのものを問い直す**必要があります。

  • 「ベテランの勘や経験」は、アナログな属人知か? それとも現場戦略知か?

  • 「顧客の使い方に関する知見」は、雑談の中の雑情報か? それとも製品改善の鍵か?

  • 「1件のトラブル対応で得られた示唆」は、記録だけの事務処理か? それとも次の価値提案の種か?

その捉え方の違いこそが、ナレッジの価値を左右する最大の要因ではないでしょうか。

まとめ ─「ナレッジを武器にする」とは、“問いを立てられる組織”になること

ナレッジを“武器”に変えるとは、単にITで可視化することではありません。

それを
**「問い直し、活用し、変化に適応する力」**
へと変換していく組織の設計が必要です。

フィールドサービスが持つ知は、製造業の未来を支える資産であり、 貴社の事業価値を「コスト」から「利益」に転換させる可能性を秘めています。


次回は、「ナレッジだけが問題なのか?ナレッジを武器に変えるだけでいいのか?」という視点から、 『現場プロセスにおける“詰まり” ー 真の制約はどこか?』について考えていきます。

ご質問などありましたら、お気軽にymg-info@ymg-advisory.com宛ご連絡ください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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ナレッジを組織で活かすには?