提案勝率を高める「シナリオ設計」の基本 ─ As-Is/To-BeとKPI結線で通す提案へ

提案は「資料の厚さ」や「機能の数」で勝負が決まるわけではありません。勝率を左右するのは、現状(As-Is)から目指す姿(To-Be)に至るまでの“変革の筋道”を、どれだけ一貫した物語として描けるかです。私はこれを「シナリオ設計」と呼んでいます。

第4回では稟議プロセスを逆算する重要性を扱い、第5回ではRFIからRFPへ移るタイミングで差別化の痕跡を仕込む方法を整理しました。本稿は、それらの土台となる「提案そのものの芯」をどう作るかに焦点を当てます。


シナリオが勝率を決める理由

顧客は機能そのものではなく、「この提案を導入したら、組織や業務がどう変わるのか」という道筋を見ています。特に稟議の場では、現場、管理、情報システム、財務、経営といった多様な立場の人たちが資料を読みます。バラバラな言葉を一つの共通言語に翻訳してつなぐものが、シナリオです。

競合との差もここで出ます。同じ機能を提示していても、どんな順番で、どの課題を優先し、どのように効果へ結びつけるかという構成の巧拙で、印象と評価は大きく変わります。


シナリオ設計の基本構造

まずはAs-Is、つまり現状の把握です。単に「現場が忙しい」「部品が足りない」といった表層的な問題ではなく、どこに詰まり(制約)があるのかを、TOC(制約理論)の視点で特定することが重要です。

ここが定まらなければ、打つべき手の順番も決まりません。

次にTo-Be、目指す姿を描きます。

未来像を大きく語るのは簡単ですが、現実感を伴わなければ“夢物語”に聞こえてしまいます。半年から一年で実現可能な変化を基軸に据え、KPIで語ることが欠かせません。

例えば「工数削減」ではなく「初回修理完了率(FTFR)を高めて再訪を減らし、結果として顧客の解約を防ぐ」といった翻訳が有効です。

そこから短期・中期・長期の三つのステップを設計します。

短期は訪問割当や部品引当の整流化、中期はナレッジや遠隔支援を使った初回完了率の底上げ、長期は予防保全への移行と契約価値の再設計──といった具合です。

ここで大切なのは、各ステップに「完了条件」と「測定KPI」を付けてやり切り感を出すことです。

最後に裏付けを添えます。

効果の試算は、効率化による時間や工数の削減、機会損失の回避、投資回収期間といった“芯”を押さえれば十分です。

詳細な前提条件や計算式は付録に回せばよい。リスク低減の効果については数値化が難しい面がありますが、「違反時の罰金」「ブランド棄損による売上影響」などの事例を交えれば、ROIの外に置いても十分に説得力を持ちます。


実務に落とし込む工夫

シナリオ設計を現場で活かすための工夫はいくつかあります。まず、顧客の言葉で語ること。「工数削減」という具体的指標のようで実は抽象語である”標語”よりも、「初回修理完了率」「再訪率」「解約率」といった社内で通じるKPIに翻訳して示すと、説得力が格段に増します。

次に、部門を縦につなぐこと。現場のKPIから管理、財務、事業のKPIまでを一本の鎖で結び、一枚の結線図(例えばA3両面)にまとめる。これはそのまま稟議資料に流用できます。

また、デモは機能の紹介ではなく、シナリオを体験させる場に変えるべきです。短尺で顧客の1シーンを再現すれば、課題がどう解消されるのかを直感的に伝えられます。ここでは華美な“Wow”よりも、現実に即した再現のほうが効果的です。


よくある失敗

ありがちな失敗は、機能の羅列に終始すること。

現場視点だけで終わり、管理や財務に翻訳されていないこと。

逆に、壮大な未来像に走って現実感を欠くこと。あるいは、競合と同じ語り口で印象が残らないこと。

これらはすべて「シナリオ設計の欠如」に起因します。


まとめ

提案勝率を高めるには、機能ではなくシナリオで勝つことが不可欠です。

As-IsからTo-Beへの筋道を顧客の言語で描き、KPIで結線し、短尺デモやA3稟議サマリーに落とし込む。

これが最低限の実務セットです。

承認を通すには「経路と基準を逆算せよ」(第4回)、コンペで勝つには「RFI期に痕跡を残せ」(第5回)、そしてその両方を支える芯が「シナリオ設計」(本稿)です。

Insightsの連載として読んでいただくと、勝ち筋設計の全体像がより立体的に見えてくるはずです。


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