海外事例に学ぶ ─ 収益化するサービスDXの条件
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
ニュースレター前々回(10/30投稿 サービス部門をコストから価値へ)では、「サービス部門をコストから価値へ」転換するために、企業が“成果をKPIで語る”必要性をお伝えしました。
今回はその先 ─「価値をどう収益化するか」に焦点を当てます。
その答えを示しているのが、Siemens Energy、Rolls-Royce、そしてKONEです。 前回も取り上げたこれら3社はいずれも、単なる保守契約を超えて、「稼働ライフサイクルを売る」モデルへ移行しています。
これは、企業が単なる製造業者(Manufacturer)から、パフォーマンス・パートナー(Performance Partner)と役割を変え、顧客の成功に直接コミットすることで、Win-Winの関係を築くという新しい産業の姿を体現しています。
1. サービスと収益への具体的な影響
このビジネスモデルへの移行は、契約形態の変更にとどまらず、オペレーション、顧客体験、そして財務体質そのものを変えるインパクトを持ちます。
| 企業・モデル | サービスへの具体的な影響 |
|---|---|
| Siemens Energy(Service as a Revenue) | 最適化された保全:予知保全により、保全活動の時期と内容がデータに基づき最適化されます。これにより、メンテナンスコストの無駄を削減し、ガスタービンの稼働率(アベイラビリティ)を最大化します。サービス提供者が顧客のプラントのエネルギー効率改善まで責任を持つケースも増えます。 |
| Rolls-Royce(PBH/TotalCare) | 完全な安心の提供:顧客(航空会社など)は、エンジン整備の計画、部品管理、修理工場の手配といった複雑なロジスティクスから解放されます。Rolls-Royceが、エンジンの「飛べる状態」を保証する役割を担うことになります。 |
| KONE(24/7 Connected Services) | 予防的な介入:従来の「故障してから対応」ではなく、IoTが発する微細な異常信号をAIが検知し、故障の予兆の段階で技術者を派遣します。これにより、利用者の待ち時間(ダウンタイム)を劇的に短縮し、安全性と満足度を向上させます。 |
3社に共通するのは、「顧客体験そのものを成果として提供する」という考え方です。
予期せぬ停止を減らし、機器の寿命全体にわたって安定した性能を提供することで、顧客との信頼関係が飛躍的に高まり、サービスの本質的な価値へと昇華しているのです。
2. 収益と財務体質への影響
この構造転換の最も大きな成果は、収益の安定性と企業価値の向上にあります。
| 企業・モデル | 収益・財務体質への具体的な影響 |
|---|---|
| Siemens Energy(SaaR) | 収益の安定化と成長:LTSAからの収益が安定したキャッシュフローを生み出し、景気変動による新規プラント建設の落ち込みなどの影響を緩和します。サービスは通常、製品本体よりも高い利益率を持つため、企業全体の収益性の向上に貢献します。 |
| Rolls-Royce(PBH/TotalCare) | ビジネスサイクルの安定化:エンジンの販売は航空機の需要に大きく左右されますが、PBHは飛行時間に応じて収益が発生するため、エンジンの稼働期間を通じて収益を得ることができます。これにより、景気後退時でも収益源を確保し、財務の予測可能性が高まります。 |
| KONE(24/7 Connected Services) | 長期契約へのシフト:従来のスポットでの修理や部品販売から、デジタルサービスと連動した長期の包括契約へのシフトを促します。これは、既存設置ベース(Installed Base)からの持続的な収益を最大化する戦略です。 |
共通しているのは、単発収益から経常収益(Recurring Revenue)への転換です。
市場ではこのモデルが高く評価され、結果として企業価値(時価総額)の上昇にもつながっています。
つまり、DXとはコスト削減の手段としてだけではなく、財務構造の再設計なのです。
3. 共通するテクノロジー活用(DX戦略)
この3社には、明確な共通構造があります。
それが、IoT・AI・クラウドを活用した“稼働ライフサイクル最適化プラットフォーム”です。
| テクノロジー要素 | 共通の戦略・実現していること | 具体例 |
|---|---|---|
| IoT/センサー技術 | 機器の状態をリアルタイムで監視し、遠隔で稼働状況を把握。 | ガスタービンの温度・振動、航空機エンジンの稼働状況、エレベーターの動きなどを常時データ化。 |
| クラウド/データ解析 | 膨大な運用データをクラウドに集約し、AIで異常パターンを学習。 | 故障のパターンを学習し、異常の兆候を自動で検知する。 |
| 予知保全(Predictive Maintenance) | 故障が発生してから修理する事後保全から、データに基づいて故障する前に予防的にメンテナンスを行う仕組みへ移行。 | KONE 24/7は、異常が発生する前に技術者が出動できる。これによりダウンタイムを最小化。 |
| デジタルツイン | 現実世界の機器を仮想空間に再現し(デジタルツイン)、最適化シミュレーションや遠隔診断に活用する。 | Siemens EnergyやRolls-Royceが、タービンやエンジンの寿命予測やアップグレード効果のシミュレーションに利用。 |
これらの共通戦略は、「Servitization(サービタイゼーション)」
─ 製品にデジタルサービスを組み込み、継続的な価値提供と収益性向上を両立させる仕組みの中核にあります。
まとめ──“成果を売る企業”への進化
これらの3社は、いずれもDXをテクノロジーではなく“顧客との関係構造の再設計”として位置づけています。
機器を製造し納入するManufacturerの立場から、顧客の成功を共に設計するPerformance Partnerへ──。
その結果、彼らは「コスト削減のDX」から「収益を生むDX」へと進化しました。
そしてこの潮流は、製造業・インフラ・エネルギーといったB2Bセクターにおいて、 これからの5年を決定づける“次の成長モデル”となるでしょう。
👉 次回(2週間後)は、この「サービタイゼーション」を日本企業が自社にどう取り込むべきか。 特に、既存契約構造・データ活用・営業体制の3つの壁をどう突破するかを解説していきます。
来週は、海外事例ピックアップ#4として、やはりService CouncilのStrategic Resilience Report(アセット集約型ビジネスにおける「サービスを通じた戦略的レジリエンス」)を解説します。
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