海外事例ピックアップ #4 ─ サービス組織こそがレジリエンスの中核である
お世話になっております。
YMGアドバイザリーの山口です。
毎週お届けしているニュースレターですが、今週は「海外事例ピックアップ」の週で、注目すべき海外レポートや調査を取り上げ、日本の製造業やサービス部門にとっての示唆をお伝えします。
第4回の今回は、米国Service Councilが2025年6月に公開したレポート『Achieving Strategic Resilience Through Service in Asset-Centric Businesses』から、世界の製造・エネルギー・設備系(Asset Centric)企業が直面している共通課題、 ──「戦略的レジリエンス(Strategic Resilience)」取り上げます。
0. なぜ今、“レジリエンス”なのか?
グローバル・サプライチェーンの混乱、地政学的リスク、技術変化の加速。 こうした外的ショックはもはや「一時的な異常」ではなく、新しい常態となっています。
従来のリスクマネジメントやBCP(事業継続計画)は、 “危機後に立ち直る”ための仕組みでした。 しかし、現代の企業に求められるのは、“危機の中で進化し続ける能力”です。
Service Councilはその答えを、「サービス部門こそがレジリエンスの中核である」という視点から提示しています。 現場の稼働データ・顧客接点・技術知識──それらが企業の“生命線”を支えているのです。
1. Trend(潮流):サービスがもたらす“予測的レジリエンス”
レポートはまず、レジリエンスの定義を再構築しています。
それは「復旧」という意味合いではなく、“ショックを吸収し、適応し、学習する力”。
つまり、サービス部門が持つ「観察・予兆・対応」の仕組みが、 レジリエンスを生み出す源泉だと定義しています。
トレンド①:予防から“予測的レジリエンス”へ
IoTセンサーとAIによる異常検知は、もはや一般化しました。 次の段階では、“どの故障が、どんな二次被害や供給遅延を生むか”までを予測し、 被害波及を最小化する意思決定モデルが求められています。
トレンド②:サービスとサプライチェーンの融合
部品供給の遅れが現場停止に直結する今、 フィールドサービスとロジスティクスをデータで統合する動きが加速。 エンジニアの現場知見が、調達・設計・運用計画にリアルタイムで反映される。 この「サービス主導型サプライチェーン」が、欧米ではすでに定着しつつあります。
こうした潮流を踏まえると、レジリエンスとはもはや “IT部門の議題”ではなく、“サービス経営の中核テーマ”だと言えるでしょう。
2. Red Flag(警鐘):日本企業を縛る「構造的な壁」
Service Councilは同時に、各企業が抱える“Red Flag(警鐘)”も明示しています。
これは、単なる障害ではなく、“組織の成長を止める構造的リスク”です。
そして、この3つは日本企業にも深く当てはまるのではないでしょうか。
① データと知見の断片化──「つながらない強み」が最大の弱点に
顧客・設計・サービス・営業がそれぞれのシステムを持ち、 ナレッジが分散している企業は少なくありません。
これは、かつての“縦割りの熟練文化”がデジタル時代に形を変えて残った姿です。
しかし今、レジリエンスの敵はサイロ化です。
現場の経験知(ex. どの環境でどんな故障が起こりやすいか)や 顧客対応履歴を統合できなければ、AIも機能せず、 “予測的レジリエンス”の実現は不可能です。
② スキルとマインドのギャップ──AIを使えない「理由なき不信」
多くの現場では、「AIが自分の仕事を奪う」「結果を信頼できない」という心理的抵抗が残ります。
しかし、レジリエンスを支えるのは“人とAIの協働”です。
AIが示す確信度を人が判断で補完し、人が見つけたパターンをAIに学習させる。 この往復が成立しない限り、DXは表層的な自動化で終わってしまいます。
③ 経営の過小評価──“サービス=コスト”という固定観念
最も深刻なのは、経営層がサービスを「顧客満足のためのコスト」と捉える構造です。
レポートでも、経営意思決定の遅れがレジリエンス欠如の最大要因として指摘されています。
デジタルや人材投資を「費用」ではなく「保険・資産」と見なせるかどうか。
ここに、日米欧の差が最も鮮明に現れていると私は考えます。
これらのRed Flag(警鐘)は、外部環境よりも内部構造の硬直性から生じています。
そして、それを変えられるのは「経営」と「現場」をつなぐ翻訳者だけです。 (→これは第14回「翻訳力の重要性」で述べたとおりです)
3. 戦略的レジリエンスの構築──“知識構造化”から始めよう
YMGアドバイザリーとしての提言は明確です。
レジリエンス構築は、巨額のシステム導入ではなく、知識の構造化から始まります。
布石①:サービス知識構造の統一
現場・設計・調達の間で知見を共通フォーマット化し、AIが学習・提案できる構造にする。
これは「Service BOM」や「As-Maintainedデータ」を横断管理する枠組みに直結します。
布石②:失敗を許容する文化の醸成(次回予告)
レジリエンスは、失敗を通じた学習サイクルからしか生まれません。
データを共有し、失敗を隠さず改善する文化 ─ これこそが、次回(11/24投稿予定)に論じる「日本企業が超えるべき壁」です。
まとめ──“ショックを学習に変える組織”へ
レジリエンスの本質は、“壊れない仕組み”ではなく、“壊れても進化できる仕組み”です。 AIやIoTはそのための補助輪にすぎず、最も重要なのは学習する組織の構造です。
企業がサービスを「守るためのコスト」ではなく、 「変化を生み出す資産」として捉えるとき、 日本の製造業にも真のレジリエンスが根づくでしょう。
👉 来週は、「日本企業の壁──失敗を許さない文化をどう超えるか」と題して、失敗を共有し、知識として活かすための組織設計を解説します。
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