Vol.16:2026年に向けた現場DXの布石:過去記事の総括から導くYMGの提言

9月から連載を開始した本シリーズも、年内最終回となりました。

今回は、過去15回の記事を総括し、皆さんの2026年現場DX提案戦略を成功させるための布石にしたいと思います。

イントロ:現場DXは「課題克服」から「構造設計」フェーズへ移行した

YMG Insights Reportシリーズは、Vol.1〜Vol.10で「なぜ提案が通らないのか」「なぜFSMは刺さらないのか」という“提案の敗因”を構造的に分析してきました。

そこで明らかになったのは、提案の不調は製品機能の不足ではなく、顧客側の構造(KPI、業務慣行、制度、文化)と噛み合っていないことに起因しているという事実でした。

Vol.11以降は、焦点を、提案における“機能説明”から“構造設計”へ転換し、 現場DXを成功に導くためのフレームワーク─As-Maintained BOM(以下AM-BOM)、Closed-loop、業務再設計、制度接続─を段階的に整理してきました。

いま、現場DXは明確に次世代のフェーズへ移行しています。

それは単なる課題解決ではなく、 「構造をどう設計し、顧客企業全体の学習サイクルをどう創り出すか」 という視点が求められるフェーズです。

本稿では、Vol.1〜15までの論点を「構造的進化の3フェーズ」として再構成し、2026年に向けたYMGとしての実践的提言をまとめます。


1️⃣ FSM提案の敗因を克服する「構造的進化の3フェーズ」

提案が通らない理由を、機能・価格・デモ品質といった表層要因で説明する時代は終わりました。

本質は常に「構造の不一致」です。 その不一致を克服するフレームワークとして、YMGは以下の3フェーズを提示します。

■ フェーズ1:データの「翻訳」

─ 現場のリアリティをAM-BOMとClosed-loopで構造化する

Vol.1〜Vol.5で扱った最も根源的な敗因は、 「デモが刺さらない」「機能比較→価格競争に陥る」という構造です。

この敗因は、製品の魅力ではなく、 顧客の“現場の現実”が提案の中に翻訳されていないことに原因があります。

Vol.11〜12で示した通り、 現場DXの基盤は、現物の構成を正しく表現する AM-BOMであり、 現場→設計に情報を循環させる Closed-loop です。

この2つは、単なるデータモデルではなく、 「現場で起きていることを、設計・経営が理解できる言語に翻訳する座標系」 にほかなりません。

FSM提案が顧客に刺さらないのは、 機能ではなく、 “翻訳の不足” によるものだと結論づけることができます。

 

■ フェーズ2:業務の「緩衝」

─ 個別最適の摩擦を吸収し、組織スループットを最大化する

Vol.6〜Vol.10で扱った敗因は、 「現場が巻き込めない」「個人最適と組織最適が衝突する」という構造でした。

この壁を壊す鍵が、Vol.13〜14で論じた 業務再設計 + 緩衝(バッファ)設計 です。

Volvo建機のDigital Twinのように、 現場・サービス・設計・品質が同じデータを共有することで、 組織全体としての“スループット最大化”を実現できます。

特にVol.14で強調した 「最適化は設計作業であり、魔法ではない」 という視点は、今後ますます重要になります。

  • 目的関数の明確化

  • 制約条件の設計

  • 緩衝パラメータによる現場負荷の低減

これらはすべて、FSM導入を「現場負荷」ではなく “組織全体の生産性向上” へと転換するための構造的条件です。

 

■ フェーズ3:学習の「制度化」

─ 評価・報酬制度に接続し、自律学習する組織へ

Vol.15では、DXが伸び悩む最大の原因として 「制度の不整合」 を取り上げました。

  • DX成果とKPIがつながらない

  • データ提供者に成果が還元されない

  • DX関連業務(RCA、AM-BOM整備、翻訳)が昇進昇格につながらない

これらの断絶を放置したままでは、 現場の改善活動は永続しません。

YMGは、制度接続の鍵として以下3つを提言しました。

  1. 学習(インプット)評価の制度化

  2. 成果共有プール(Success Pool)

  3. 翻訳者のキャリアパス制度化

この3つは、現場DXを一時的な施策ではなく、 「自律学習する組織モデル」 へ転換させるための基盤です。


2️⃣ 2026年に向けた「YMGの提言」─ 実践フレームワーク

これら3フェーズを踏まえ、2026年以降のDX提案は “機能説明”から“構造設計提案”へ 不可逆的に進化する必要があると考えます。

以下に、YMGとしての戦略的提言をまとめます。

■ 提言1:「提案書」から「制度設計ロードマップ」へ

提案書のスコープを、 機能説明 → 現場DX → 制度接続(Vol.15)へ拡張し、 顧客企業にとっての“長期的な運用設計図”を提示する必要があります。

提案はもはや、 「どの機能を使うか」ではなく 「どの構造を作るか」 へと進化しなければいけません。

 

■ 提言2:「翻訳者」機能の実装アプローチ

Vol.12・15を通じて示したように、 現場と設計、データと意思決定を結びつける “翻訳者”の機能がDX成功の中核にあります。

顧客に対しては、 単なる運用担当ではなく 「翻訳者を育成し、制度として位置づける」 というアプローチを提案すべきです。

 

■ 提言3:「失敗の許容」を戦略化する

失敗は単なるコストではなく、 学習コストであるという視点を予算計画に組み込むべきです。

これは、

  • 緩衝パラメータの設定

  • 定期振り返りの制度化

  • 改善データの蓄積 といった実務レベルに落とし込むことができます。

“失敗を許容する構造”を作れた企業だけが、 現場DXを持続的に成長させることができます。


3️⃣ 結論:構造を語れる提案こそ、未来の競争優位性である

Vol.1〜15を貫く結論は明確です。機能や価格で勝つ時代はすでに終わりました。

顧客が求めているのは、 「現場 → 設計 → 経営」 を貫く構造をどう設計するか という物語です。

AM-BOM、Closed-loop、業務再設計、制度接続─ これらはバラバラの施策ではなく、 “構造設計のストーリー”として統合されるべきものです。

そしてその物語を描き、顧客と共に再設計できる存在こそ、 未来の提案者の競争優位性になります。

YMG Advisoryは、 この「構造設計への転換」を実務として支援し、

貴社の2026年戦略を成功させるための現場DXの布石を、皆さんとともに形づくっていきたいです。


👉今回で、本シリーズは一旦最終回となります。来年からは、新たな観点で皆さんに役立つシリーズを開始したいと思います。

2026年もお楽しみに。


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