#01:AI導入率98%。それでもフィールドサービスの生産性問題が解決しない理由
AIは、フィールドサービスの生産性を本当に高めているのでしょうか。
Salesforce Australiaが2026年8月に発表した「State of Field Service」の豪州分析には、非常に興味深い数字が並んでいました。
豪州の調査回答組織の98%が、すでに何らかのAIをフィールドサービスに導入。
84%はAI投資から測定可能なROIを得ていると回答しています。
さらに、AIをスケジューリングやディスパッチに活用している企業では、53%が1作業当たり売上の増加を報告しています。
ここまでを見ると、AI活用はすでに実験段階を終え、フィールドサービスの生産性向上に確かな成果をもたらし始めているように見えます。
しかし、同じ調査には、別の数字もあります。
現場とバックオフィスのテクノロジーを単一のプラットフォーム上で統合できている企業は、わずか18%。
53%の企業では、モバイルワーカーが現場で必要な顧客情報に十分アクセスできていません。
さらに68%が、過去2年間でモバイルワーカーの離職が増えたと回答。豪州では、その最大の理由として「スケジューリングのプレッシャー」が挙げられています。
私は、AI導入率98%という数字以上に、こちらの数字の組み合わせに注目しました。
AIは普及した。しかし「仕事の流れ」はつながったのか
AIの導入そのものと、フィールドサービスの業務改革は同じではありません。
例えば、AIによって技術者のスケジュールをより密に組めるようになったとします。
移動時間が減り、一日に対応できる作業件数が増えれば、表面的には生産性が向上したように見えるでしょう。
しかし、その技術者が現場に到着したとき、必要な顧客情報や設備履歴を確認できなかったらどうでしょうか。
必要部品が分からない。
過去の修理履歴が見つからない。
顧客固有の契約条件が分からない。
結果として現場で確認作業が増えたり、一度で問題を解決できず再訪問になったりすれば、スケジュールだけを高度化しても、顧客課題解決までの流れ全体は良くなりません。
むしろ、効率よく「より多くの仕事を現場へ送り込む」ことによって、現場の負荷をさらに高める可能性すらあります。
今回の調査で、AI活用が進む一方、スケジューリングのプレッシャーが離職要因のトップになっているという結果は、少なくともこの問題を考える材料になると思います。
AIが離職を引き起こしている、と単純に結論づけることはできません。
しかし、
「AIで効率化すること」と「現場が持続的に成果を出せること」は同じではない
という点は、改めて考える必要がありそうです。
第2作で書いた「テクノロジーは、制約を外すために使う」
私は第2作『なぜ、現場は忙しいのに生産性が上がらないのか? ― フィールドサービス改革に必要なスループット思考』の
第7章を、
「テクノロジーは、制約を外すために使う」
というタイトルにしました。
AI、FSM、モバイル、IoTなど、それぞれの技術には大きな可能性があります。
しかし、テクノロジーを導入すること自体が生産性向上ではありません。
まず見るべきなのは、
顧客からの依頼が発生してから、問題が解決するまでの流れのどこが止まっているのか。
ということです。
もし最大の制約が「情報不足」であれば、必要なのは、現場が必要な情報にすぐアクセスできる状態を作ることでしょう。
診断の属人化が制約なら、AIによる類似事例検索やナレッジ支援が有効かもしれません。
スケジューリングが制約なら、AIによる最適化が大きな価値を生む可能性があります。
一方、必要な部品が届かないことが最大の制約なのに、報告書作成AIだけを高度化しても、顧客課題解決までのリードタイムはほとんど変わらないでしょう。
大切なのは、
「AIで何ができるか」から始めるのではなく、「何が流れを止めているか」から始めること。
だと考えています。
53%が必要な顧客情報を持たない、という数字
今回の調査でもう一つ気になったのが、53%の企業で、現場作業者が必要な顧客情報へ十分アクセスできていないという結果です。
第2作の第5章では、フィールドサービスで一回の訪問による問題解決の可能性を高めるには、
Right Technician
Right Parts
Right Information
を、
Right Timing
でそろえる必要がある、と整理しました。
情報は「会社のどこかに存在する」だけでは役に立ちません。
現場の技術者が判断を必要としている、その瞬間に利用できて初めて価値になります。
顧客情報、設備構成、過去履歴、故障事例、契約内容、部品情報。
これらが別々のシステム、Excel、紙、担当者の頭の中に分散したままであれば、
その上にAIを載せても、AIが利用できる情報そのものが限定されます。
だからこそ、98%というAI普及率と18%という業務統合率の差は、非常に象徴的に見えます。
AIという最先端のレイヤーは急速に普及している。しかし、その下にある「仕事の流れ」や「情報の流れ」は、まだ十分につながっていない。
この状態は、日本企業にとっても決して他人事ではありません。
いや、日本企業の方が事態は深刻だとYMGではみています。
日本企業でも「AIを導入したか」がKPIになっていないか
生成AIやAgentic AIへの関心が急速に高まる中、日本企業でもAI活用のPoCや導入プロジェクトは今後さらに増えるでしょう。
もちろん、その動き自体を否定する理由はありません。
ただし、DXの進捗を、
「AIを導入した」
「利用者が増えた」
「AIによる処理件数が増えた」
だけで評価してしまうことには注意が必要です。
本当に見るべきなのは、その結果として顧客課題解決までの流れがどう変わったかです。
例えば、
再訪問は減ったのか。
情報を探す時間は短くなったのか。
技術支援部門への問い合わせは減ったのか。
スケジュール変更や手戻りは減ったのか。
一回で問題を解決できる割合は上がったのか。
そして、
顧客から依頼を受けてから解決するまでの総リードタイムは短くなったのか。
AIの利用率よりも、こうした変化を見る方が、フィールドサービスにおける本当のROIに近いのではないでしょうか。
AI導入の前に、まず一つ問いを置く
AIは、フィールドサービスを大きく変える可能性を持っています。
しかし、その価値を最大化するために必要なのは、AIを最初に考えることではないと私は考えています。
まず、
「私たちの顧客課題解決の流れは、今どこで止まっているのか?」
を確認する。
そして、
「その制約を外すために、AIは何ができるのか?」
と考える。
順番は、この方が自然ではないでしょうか。
AI導入率98%という数字は、フィールドサービスの未来を感じさせます。
一方で、統合率18%という数字は、その未来を実現するためには、まだ地道に取り組むべき仕事が残っていることも教えてくれます。
最新テクノロジーを追いかけることと、地に足のついた業務改革は対立するものではありません。
むしろ、後者があるからこそ、前者が本当に価値を生む。
私はそう考えています。
あなたの現場では、AIはどの「制約」を外そうとしているでしょうか。
YMG Advisoryでは、システムやツールを選ぶ前に、ワークオーダー発生から解決完了までの業務の流れを整理し、どこに本当の「詰まり」があるのかを見つけるところから、フィールドサービス改革を考えています。
どこに詰まりがあるか見つけるのに困っていらっしゃる方、是非一度無料セッションで棚卸ししてみませんか?
参考
Salesforce Australia, The ROI of Innovation: How Australian Field Service Leaders are Winning with AI, August 12, 2026