#02:「低回転部品を3D Printingにすれば、在庫を持たなくて済む」のか?

3D Printingが変える「Right Parts」の考え方

サービスパーツの在庫管理には、昔から悩ましい問題があります。

中でも難しいのが、いつ需要が発生するか分からない低回転部品です。

滅多に出ない。だから在庫としては長く置いておきたくない。
ところが、そういう部品に限って高額だったり、設備を動かすうえで欠かせない重要部品だったりします。

在庫を管理する側からすれば、いつ出るか分からない部品を倉庫に置き続けるのは、できれば避けたい。

一方、フィールドサービス側からすると、いざ必要になった時に、

「すみません、部品がありません」

では済まないのが実態です。

部品欠品により顧客設備が止まってしまえば、最前線で説明し、かなり高い確率でお叱りを受けるのは現場です。

そんなサービスパーツ特有の悩みを考えるうえで、興味深い海外記事を見つけました。

Field Service News/Copperbergが2026年8月に掲載した、スペアパーツへのAdditive Manufacturing(AM)、いわゆる3D Printingの活用に関する論考です。

記事では、低回転部品や長期間使用される設備向け部品を、すべて物理在庫として持つのではなく、検証済みの設計データをDigital Inventoryとして保有し、必要になった時に製造する考え方が紹介されています。

Deutsche Bahn社では、すでに20万点を超える3Dプリント部品を1,000以上の用途で使用し、Digital Warehouse(デジタル倉庫)には1,000を超える仮想モデルを”在庫”しています。同社は、こうした取り組みによって部品調達の迅速化や在庫・物流負担の軽減を進めています。

一見すると、とても魅力的な話です。

ただ、サービスパーツの需給に関わってきた立場からすると、ここで少し立ち止まって考えたくなります。


「低回転・高額部品こそ3D Printing」は、本当に理想的なのか

私は以前、サービスパーツに特化した需給計画・在庫最適化ソリューションの提案に携わっていました。

その経験からすると、”デジタル在庫”へ置き換えたくなる代表的な部品として、

低回転・高額・長納期・Critical

が真っ先に上がると思います。

いつ需要があるかもしれない部品を、念のため倉庫に長年置いておく。

在庫金額は膨らみますし、結局一度も使わないまま廃棄になる可能性もあります。

必要になった時だけ3D Printingで作れるのであれば、在庫管理の観点からは非常に魅力的です。

ところが、ここには少し矛盾があるように思います。

そうしたCritical Partsほど、

「3D Printingで作った部品を、本当に長期間安心して使えるのか」

という品質保証面のハードルも高くなるからです。

強度、耐久性、疲労、材料特性、製造条件。

安全や設備性能に直接関わる部品であれば、「同じ形のものが作れた」だけでは当然不十分です。

実際、Deutsche Bahn社も3Dプリント部品について、使用前に耐久強度を含む試験をかなり行っているようです。3D Printingだから品質保証ができない、ということではありませんが、用途がCriticalになればなるほど、そのための検証や認定も必要になります。

つまり、

在庫として最も持ちたくない部品ほど、簡単には3D Printingへ置き換えにくい。

そんなケースも十分あり得るのではないか。

海外の記事には、ときどき技術導入後の“きれいすぎるシナリオ”が先に描かれているものがあります。

日本企業で実業務において使うことを考えるなら、その手前にある品質保証や運用条件まで見なければなりません。


では、「正規品の恒久代替」にしなければどうか

そこで、もう少し現実的ではないかと思われる使い方を考えてみました。

これは今回の参照記事そのものの結論ではなく、私自身のサービスパーツ需給計画の経験から考えた一つの仮説です。

3D Printingを、

正規部品を完全に置き換える手段

として考えるのではなく、

正規部品が届くまでをつなぐ、一時的な供給手段

として使えないでしょうか。

例えば、需要は頻繁ではないものの一定程度発生する。
通常調達のLead Timeは長い。欠品すると顧客設備への影響は大きい。
しかし、常時Safety Stockを厚く持つほどでもない。

そんな部品です。

3D Printing品に10年、20年の耐久性を求めるのではなく、

正規品が届くまで、あるいは次回の計画保全まで安全に使える

という条件を満たせれば、話はかなり変わってくるかもしれません。

高回転で需要が安定している部品なら、従来どおり通常製造と在庫で対応する方が合理的でしょう。

逆に、極端に低回転で高額かつCriticalな部品は、在庫削減効果こそ大きいものの、長期使用に耐えるための品質保証のハードルも高い。

その中間にある、「間欠的に需要はある。欠品すると困る。でも常時かつ長期間在庫するには悩ましい」部品こそ、3D Printingによる一時供給を検討する価値があるのではないか。

私はそこに、比較的現実的な適用領域があるように思います。


在庫管理とフィールドサービスの両方が、今より少しHappyになる

ここは、日本の組立製造業で考えると特に面白いところです。

多くの企業では、サービスパーツの需給・在庫管理業務とフィールドサービス業務は別部門になっています。

在庫管理側から見ると、

「在庫金額を下げたい」
「長期滞留品を減らしたい」

となります。

一方、フィールドサービス側からすれば、

「必要な部品はすぐ出してほしい」
「欠品で顧客に怒られるのはこちらだ」

となります。

どちらの主張も間違っていません。

ただ、それぞれが自分たちのKPIだけを追うと、

在庫圧縮とサービスレベル

のトレードオフになりがちです。

これは前作『なぜ、日本のフィールドサービスDXは進まないのか?』でも取り上げた、部門ごとのKPI最適化が全体最適を損なう問題と同じ構造です。

もし3D Printingという供給手段をうまく間に挟めるのであれば、この関係を少し変えられるかもしれません。

在庫管理側は、安全在庫量をある程度圧縮できる。

フィールドサービス側は、欠品したからといって顧客を長期間待たせずに済む。

結果として、在庫レベルを抑えながら即納率を維持、あるいは改善できる可能性もあります。

顧客から厳しく催促される回数や、部品欠品に起因する非計画出動も減らせるかもしれません。

つまり、どちらか一方を犠牲にするのではなく、

両方の部門が、今より少しHappyになれる供給設計

ができる可能性があります。

私は、このあたりに3D Printingの実用的な価値があるのではないかと感じています。


ただし、「再訪問」が必要なら本当に得なのか

もちろん、ここでも都合のよいシナリオだけを描くべきではありません。

  • 3D Printing品でいったん設備を復旧した。

  • しばらく後に正規品が届いた。

  • そこで技術者がもう一度顧客先へ行き、部品を正規のものに交換する。

これでは追加の訪問、人件費、移動費、顧客との日程調整が発生します。

在庫コストは下がっても、フィールドサービス全体のCost-to-Serveはむしろ上がるかもしれません。

だから実用性を考えるなら、

3D Printing部品で次回の計画保全まで運転を継続し、そのタイミングで正規品へ交換できる

くらいの使い方ができるのなら、かなり意味が出てきます。

緊急の追加訪問を避け、通常の計画作業の中で交換できるからです。

見るべきなのは、3D Printing品の単価だけではありません。

在庫保持
廃棄・陳腐化
緊急物流
設備停止時間
品質保証
そして追加訪問。

それらを含めたTotal Cost-to-Serveで評価する必要があります。


「新品在庫か3D Printingか」の二択でもない

さらに言えば、サービスパーツの供給手段は、新品在庫と3D Printingだけではありません。

例えば建機など一部の業界では、市場から戻ってきた部品を分解・修復・再生し、OEM基準で試験したうえで再び供給するリマン(第二純正)部品が、すでに一つの選択肢として定着しています。

Caterpillar社のCat Remanでは、回収した部品をOEM性能基準に沿って再生し、新品同等の12カ月保証を付けています。

コマツ社も、OEM仕様・試験手順に沿って再生した部品を、新品相当の性能・品質を持つ選択肢として提供しています。

ここでリマン部品そのものを詳しく論じるつもりはありませんが、

重要なのは、

「新品の物理在庫を持つか、3D Printingするか」という二択ではない

ということです。

通常在庫
通常調達
緊急物流
リマン部品
Digital Inventory/3D Printing

顧客が必要とするタイミングで、必要な品質の部品を、どの供給手段で届けるのが最も合理的なのか。

サービスパーツ供給を、そのようなSupply Portfolioとして考える方が現実的ではないでしょうか。


第2作で書いた「Right Parts × Right Timing」

拙著第2作『なぜ、現場は忙しいのに生産性が上がらないのか?』第5章では、

Right Technician,Right Parts, Right Information を、

Right Timing

でそろえることが重要だと書きました。

大切なのは、

「部品をたくさん持っておく」

ことではありません。

必要な部品を、顧客の問題を解決すべきタイミングで使える状態にしておく。

ということです。

第2作では、在庫金額だけを見るのではなく、部品起因の未完了や即納率なども含め、顧客課題解決までのFLOW(流れ)から部品を見る必要性を論じています。

その意味では、サービスパーツの供給方法は正規品一つである必要はありません。

3D Printingの価値も、

「倉庫の在庫をなくすこと」

ではなく、

顧客課題解決のFLOW(流れ)を止めないための供給手段を一つ増やすこと

にあるのではないでしょうか。


海外事例を、そのまま日本へ持ってこない

Deutsche Bahn社のように、3D Printingをサービスパーツ供給へ本格活用している企業はすでにあります。これは大いに参考になります。

ただ、

「海外で成功しているから、日本でもデジタル在庫へ移行すべきだ」

では少し乱暴のように思います。

まず自社のサービスパーツを見て、

どの部品で、在庫とサービスレベルのトレードオフが起きているのか。

どの部品が欠品すると、顧客課題解決のFLOW(流れ)が止まるのか。

そして、

その部品に対して、どの供給方法を組み合わせるのが一番合理的なのか。

そこから考える方が、現実的だと思います。

3D Printingは、「在庫をなくす技術」ではありません。

むしろ、

在庫をある程度抑えながら、必要な時には即応できる選択肢を増やす技術。

そう捉えると、在庫管理部門とフィールドサービス部門の両方にとって、少し違ったビジネスケースが見えてくるのではないでしょうか。


あなたの会社では、サービスパーツを「在庫金額」だけでなく、「顧客課題を解決する能力」として見れていますか?

YMG Advisoryでは、特定のテクノロジーありきではなく、顧客依頼から解決完了までのFLOW(流れ)を見ながら、部門をまたいでどこに制約があるのかを整理するところから、フィールドサービス改革を考えています。

どこに詰まりがあるか見つけるのに困っていらっしゃる方、是非一度無料セッションで棚卸ししてみませんか?

 

参考
Innovations in Spare Parts Additive Manufacturing (3D Printing) — Field Service News/Copperberg(2026年8月26日)

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