#06:現地訪問を減らせば、フィールドサービスは楽になるのか?
Zero-touch化が生み出す「次のボトルネック」
フィールドサービスの生産性を上げる方法として、
「できるだけ現地へ行かずに解決する」
という方向性は、とても分かりやすいものです。
遠隔監視で異常を検知する。遠隔対応で原因を診断する。
設定変更やリセットを遠隔で行う。
場合によっては、システム自身が異常を検知し、自動的に復旧する。
技術者が現地へ出向く回数を減らせれば、移動時間も減ります。限られた人員で、より多くの顧客を支援できるかもしれません。
人手不足が続く中では、非常に魅力的な考え方です。
ただ、ここで一つ考えてみたいことがあります。
現地訪問が減れば、フィールドサービスの仕事そのものも楽になるのでしょうか。
むしろ、逆のことが起きる可能性があります。
Zero-touchは「遠隔監視」の延長ではない
そんなことを考えさせられたのが、Field Service News/Copperbergが2026年9月に掲載したZero-touch Field Serviceに関する記事です。
ここでいうZero-touchとは、人手を介さずにサービス対応を完結させる考え方です。
記事ではZero-touchを、単に遠隔監視や遠隔支援を増やすことではなく、設備からのデータ収集、診断、判断、遠隔操作までを一つの仕組みとして設計することだと整理しています。
例えば、
既知のエラー状態を自動的に解除する。
ソフトウェアの設定を変更する。
問題のあるバージョンを遠隔で戻す。
異常が起きた際に冗長系へ切り替える。
つまり、
異常を見つけるだけではなく、その場で解決まで行う。
そこまでつながって初めて、本格的なZero-touchサービスになるという考え方です。
一方で、すべてを自動化すればよいという話でもありません。
影響が小さく、元に戻せる処置は自動化する。
影響が大きい処置は、人の承認後に実行する。
安全性や契約責任に関わる処置は、人が判断する。
こうした線引きも必要になります。
これは前号のYMG Perspective #05で取り上げた「AIにどこまで判断を任せるか」という話にもつながります。
ただ、今回私が特に興味を持ったのは、その先です。
簡単な案件から自動化されていったら、現場には何が残るのか。
自動化されるのは、まず「分かっている仕事」
自動化しやすいのは、当然ながら、ある程度パターンが分かっている仕事です。
この症状なら、この確認をする。
このエラーなら、この操作をする。
この状態なら、設定を戻す。
同じパターンが繰り返され、原因と対処方法が明確で、しかも失敗した時の影響も限定的であれば、自動化しやすいでしょう。
逆に、最後まで現場に残りやすいのはどのような仕事でしょうか。
原因がはっきりしない。
複数の設備やシステムが絡んでいる。
過去に例のない症状が出ている。
遠隔データだけでは判断できない。
顧客側の運用条件にも原因がありそうだ。
安全上、その場で人が判断する必要がある。
こうした案件です。
Zero-touch化が進むほど、現場技術者が対応する案件は、複雑な機械故障や複数システムにまたがる問題など、遠隔対応では解決できないものに偏っていく可能性があります。
つまり、
訪問件数は減る。しかし、一件あたりの難易度は上がる。
ということです。
これは、人手不足対策としてZero-touchを考える時に、見落としたくない点だと思います。
一つの工程が50%速くなれば、全体も50%速くなるのか
ここで、以前の仕事で経験したことを思い出しました。
私がClickSoftwareにいた2019年頃、電力事業者様の間では、ドローンを使った設備点検の実証実験がよく話題になっていました。
例えば、人が鉄塔へ登って点検する代わりに、ドローンを飛ばして設備の状態を確認する。
高所作業を減らせるので、安全面での効果は大きい。点検作業そのものも短時間で行える可能性があります。
私は当時も、この取り組み自体を否定的に見ていたわけではありません。
ただ、セミナーなどではよく、
「点検作業の時間が50%短くなったら、フィールドサービス全体の生産性も50%上がるのでしょうか?」
と問いかけていました。
点検は、サービス業務全体の一工程だからです。
点検の結果、異常が見つかれば、その先には、
異常内容を判断する。
必要な作業を決める。
適切な技術者を選ぶ。
必要な部品や機材を準備する。
訪問日時を調整する。
そして実際に補修する。
といった工程があります。
点検だけが速くなっても、その後の工程が同じ速度で処理できなければ、全体の作業完了件数が同じ割合で増えるとは限りません。
極端に言えば、点検工程から次の工程へ仕事を速く送り込んだ結果、その先に未処理案件が積み上がることさえあります。
当時のClickSoftwareは、独自AIを使ったスケジューリングの自動化・最適化を強みとしていたので、私自身も、
「点検だけでなく、その後の技術者配置や作業計画まで見なければ、全体の生産性向上にはならないのではないか」
と話していました。
振り返ると、当時と今ではテクノロジーは大きく変わりました。
ドローンだけでなく、IoT、遠隔診断、AI、そしてZero-touchまで使えるようになっています。
でも、問いそのものはあまり変わっていないように思います。
一つの工程を効率化した後、次にどこが詰まるのか。
Zero-touchについて考えていて、改めてこのことを思い出しました。
「技術者の人数」という制約を外したら、次は何が詰まるのか
拙著第2作『なぜ、現場は忙しいのに生産性が上がらないのか?』では、フィールドサービスを「流れ」と「制約」から見ることを繰り返し述べました。
重要なのは、一つのボトルネックを解消すれば、すべてが良くなるとは限らないことです。
ある制約を外せば、別の場所が次の制約になることがあります。
Zero-touch化も同じではないでしょうか。
例えば、これまでの最大の制約が、
現地へ行ける技術者の人数
だったとします。
簡単な案件を遠隔対応や自動化で処理できるようになれば、その制約は確かに軽くなります。
しかし次に、
難案件を診断できる技術者が足りない。
複雑な問題を支援できる熟練者が足りない。
設計・技術部門へエスカレーションしても、回答に時間がかかる。
といった別の問題が表面化するかもしれません。
つまり、Zero-touchによって消えるのは「制約そのもの」ではなく、
制約の場所が移る
ということです。
ここを見ないまま、
「現地訪問を30%削減できた」
だけで生産性向上を評価すると、本当の問題を見失ってしまいます。
現場へ行く人ほど、高い診断力が必要になる
拙著第2作の第5章では、
Right Technician, Right Parts, Right Information
を、
Right Timing
でそろえることが、フィールドサービスの生産性には重要だと書きました。
現場へ技術者を送り出した後に頑張ってもらうのではなく、
行く前に解決に必要な条件をできるだけそろえる。
その考え方です。
Zero-touch化が進むと、この考え方はむしろ重要になると思います。
なぜなら、現地へ残される案件の難易度が高くなるからです。
遠隔対応で解決できなかった。
既知の自動復旧シナリオにも当てはまらなかった。
それも現地へ行かなければならない。
そんな案件に、’たまたま空いていた’技術者を派遣しても、解決できるとは限りません。
設備構成を理解しているか。
過去の履歴を確認できるか。
必要な部品を予測できるか。
複数システムをまたいで診断できるか。
必要なら、すぐ熟練者につなげられるか。
Zero-touch化が進むほど、Right TechnicianをRight Timingで投入する重要性はむしろ高まるのではないでしょうか。
若手が経験を積む機会が減る、という別の問題
ここから先は、今回の元記事が直接論じている内容というより、私自身が気になるところです。
定型業務が遠隔対応や自動化で処理されるようになれば、それ自体は良いことです。
ただ、その定型業務は、これまで若手技術者が経験を積む場でもあったはずです。
比較的単純な故障から入り、
現物を見る。
音を聞く。
顧客に話を聞く。
部品を外す。
失敗する。
先輩に聞く。
そうした経験を繰り返しながら、徐々に複雑な案件へ対応できるようになっていく。
ところが、簡単な案件がほとんど自動化された後に入社した技術者は、いきなり難案件に直面する可能性があります。
だとすると、
Zero-touch化と人材育成は、別々に考えてはいけない
ことになります。
これまでのYMG Perspectiveでも、技術者に求める役割や行動を変えるなら、育成や上司との対話まで変える必要があると書きました。
Zero-touchも同じです。
現場に残る仕事を変えるのであれば、
その仕事をできる人を、どう育てるか
まで同時に設計する必要があります。
熟練者を「救援部隊」のままにしてよいのか
もう一つ起こりそうなのが、熟練者への依存です。
現場案件の難易度が上がれば、
「分からなければ○○さんに電話する」
という場面も増えるかもしれません。
しかし、その○○さんが一人しかいなければ、今度はその人が新しいボトルネックになります。
高難度案件が発生してから熟練者を探すのではなく、
この案件は複雑そうだ。
この設備なら、熟練者の支援が必要になりそうだ。
遠隔で待機してもらうべきか。
最初から同行してもらうべきか。
そうしたことを事前に見極め、
限られた熟練者の対応余力を、
どの案件へ、
いつ配分するか
を考える必要があります。
Zero-touchによって定型業務が減るほど、
「誰でも対応できる案件を効率よく回す」
ことよりも、
限られた高度な能力を、必要な案件へ必要なタイミングで投入する
ことの方が重要になってくる可能性があります。
現場で解けた高難度案件を、そのまま終わらせない
さらに重要なのは、高難度案件を解決した後です。
例えば、
Zero-touchでは解決できなかったため、技術者が現地へ行った。
調べてみると、これまで想定していなかった条件でエラーが起きていた。
技術者が原因を突き止め、復旧した。
ここで、
「修理完了」
として案件を閉じたら、次に同じ問題が起きた時も、また技術者が現地へ行くことになります。
そうではなく、
何が起きたのか。
どの情報があれば事前に判断できたのか。
新しい診断ルールにできないか。
遠隔で確認できるデータを増やせないか。
製品側のソフトウェアを変更できないか。
次回は自動復旧できないか。
まで戻す。
つまり、
現場の高難度案件を、次のZero-touch候補へ変える
わけです。
拙著第2作では、
属人的な判断を完全になくすのではなく、
熟練者が何を見て、
何を基準に判断したのかを残し、
次の人が使える組織能力へ変えていくことが重要
だと書きました。
Zero-touchでも、まさに同じことが必要だと思います。
現場で得た知見を、
フィールドサービス → 設計・技術部門 → 製品/診断ロジック → 遠隔サービス
へ戻す。
そして次回は、現地へ行かなくても解決できるようにする。
このループが回って初めて、Zero-touchの領域が少しずつ広がっていきます。
「訪問件数削減」をKPIにしてよいのか
そう考えると、Zero-touchの成果を何で測るかも少し変わってきます。
「現地訪問を何件減らしたか」
は分かりやすい指標です。
でも、その数字だけでは十分ではありません。
訪問件数は減ったが、残った案件の平均解決時間が大幅に伸びていないか。
高難度案件が一部の熟練者へ集中していないか。
遠隔対応を一度行った後、結局現場へ行くケースが増えていないか。
顧客設備の停止時間は本当に短くなったか。
現場で見つけた新しい知見が、次の遠隔診断へ反映されているか。
こうしたことも合わせて見る必要があります。
拙著第2作でも、個別の指標だけを見るのではなく、部門ごとのKPIが顧客課題解決という同じ方向を向いているかを見ることを重視しました。
技術者が効率よく移動できても、必要な部品がなければ解決できない。
診断精度が上がっても、適切な技術者を選べなければ解決できない。
フィールドサービスでは、個別最適ではなく、解決までの流れ全体を見る必要があります。
Zero-touchも同じです。
訪問を減らすこと自体が目的ではありません。
顧客の問題を、より早く、より確実に解決できるようになったか。
そこまで見て初めて、生産性向上と言えるのではないでしょうか。
Zero-touchは、人を不要にする話ではない
今回取り上げたCopperbergの記事では、Zero-touchを進めるには、IT、OT、設計・技術部門、サイバーセキュリティ、サービス部門が共通の考え方で動く必要があり、技術だけでなく、信頼、ガバナンス、人材能力も制約になり得ると指摘しています。
これは重要な指摘だと思います。
Zero-touchという言葉からは、
「人が介在しなくなるサービス」
という印象を受けます。
でも実際には、人が不要になるというより、
人が担う仕事の場所と難易度が変わる
と考えた方がよさそうです。
定型業務は遠隔対応へ。
既知の問題は自動化へ。
人が現地へ行くのは、本当に人でなければ解けない問題へ。
そうなれば、フィールド技術者に求められるのは、単純な作業の速さよりも、
状況を整理する力。
複数の情報から原因を考える力。
例外時に判断する力。
熟練者や設計・技術部門と連携する力。
そして、現場で得た知見を次へ残す力。
になっていくでしょう。
Zero-touchは、技術者の仕事をなくすというより、
技術者の仕事を、より高度な問題解決へ移していく
取り組みなのかもしれません。
自動化した後の「次の制約」を見る
Zero-touchには、大きな可能性があります。
現地訪問を減らせる。
設備停止時間を短くできる。
限られた人材を、より重要な案件へ使える。
ただし、
「訪問が減った。だから成功した」
で終わらせないことが重要です。
定型業務を自動化した後、何が残るのか。
その仕事をできる人はいるのか。
熟練者は新しいボトルネックになっていないか。
現場で得た知見は、製品や診断ロジックへ戻っているか。
そして、その結果として次にどの案件をZero-touch化できるのか。
そこまで見ていく。
拙著第2作で書いたように、フィールドサービス改革は、一つの施策を導入して終わるものではありません。
制約を見つける。外す。そして、次に現れた制約を見る。
Zero-touch化も、その繰り返しの一つとして捉える方が、実務には近いのではないでしょうか。
あなたの会社では、現地訪問を減らした「その後」に、どんな仕事が現場に残るかまで考えていますか?
YMG Advisoryでは、AI、遠隔サービス、FSMなどのテクノロジー導入そのものを目的にするのではなく、それによってどの制約を外し、次にどこがボトルネックになるのかを見ながら、顧客課題解決までのFLOW全体からフィールドサービス改革を考えています。
参考
Field Service News / Copperberg, The Business Case for Zero-Touch Field Service, September 18, 2026.同記事は、編集方針・構成を人が定めたうえでAI支援を用いて制作し、人によるレビュー・承認を経た記事であることを明記しています。