#08:人手不足なのに、なぜ「人の使い方」への関心は低いのか?
AIへの関心43%、配員・スケジューリングへの関心4%から考えるフィールドサービスの盲点
「人が足りない」
フィールドサービスやアフターサービスの現場で、ここ数年もっともよく聞く言葉の一つではないでしょうか。
ベテラン技術者が減っている。
若手の採用が難しい。
製品は複雑になり、覚えるべきことは増えている。
一方で、顧客からはこれまで以上に早い対応を求められる。
では、その限られた人材をどう使うか。
どの仕事に、どのスキルを持った人を配置するのか。
移動時間をどう減らすのか。
どの案件を遠隔で解決し、どの案件へ人を派遣するのか。
当然、こうしたテーマへの関心も高いと思いたくなります。
ところが、最近公開された海外調査では、少し意外な結果が出ていました。
最大の課題は人材不足。しかし、配員・スケジューリングへの関心は最下位。
このギャップは、何を意味しているのでしょうか。
人材不足は最大の課題。でも「人をどう使うか」は4%
Copperbergが、製造業を中心としたサービス/アフターマーケットのリーダー100人を対象にまとめた「Service at the Core」という調査があります。
この調査では、人材不足が最も多く挙げられた課題でした。データ品質、AI、経済環境などを上回っています。
ところが、「社内で最も注目されている領域」としてフィールドサービスオペレーションを挙げた回答者はわずか6%。12項目の中で最下位でした。
さらに、「今後もっと学びたいテクノロジー領域」を聞くと、
- AI/生成AI:43%
- サービスインテリジェンス/意思決定支援:38%
- 予測分析/故障予測:37%
に対して、
- 人員配置計画、スケジューリング、訪問ルート最適化:4%
21項目中最下位です。
もちろん、この100人の回答をそのまま市場全体の実態と考えるべきではありません。
(公開情報だけでは、回答者の地域、業種、企業規模や設問方法の詳細までは十分確認できません。Copperberg自身のコミュニティをベースにした調査でもあります。)それでも、
「人が足りない」と言いながら、「限られた人をどう使うか」への関心は低い
という結果には、考えさせられるものがあります。
AIへの関心が高いこと自体は、問題ではない
ここで誤解したくないのは、
「AIよりスケジューリングを優先すべきだ」
と言いたいわけではないことです。
AIへの関心が高いのは当然でしょう。
- 過去の作業履歴を検索する
- 技術者へ故障原因の候補を示す
- 設備の異常を事前に予測する
- 顧客からの問い合わせを自動で分類する。
こうした使い方によって、人手不足を補える可能性は十分あります。
Copperbergの記事でも、予測AIが故障の兆候を捉えたとしても、その価値を実際に生み出すには、作業を予定し、部品を確保し、適切な技術者を割り当て、顧客へ影響が出る前に介入できなければならない、と指摘しています。
ここが重要だと思います。
AIが、
「この設備は3日以内に故障する可能性があります」
と教えてくれた。
素晴らしい予測です。
でも、その後、
- 対応できる技術者がいない
- 必要な部品がない
- 技術者はいるが、その設備を扱えるスキルがない
- 顧客と停止時間を調整できない
- 訪問枠が埋まっている。
という状態なら、故障を予測できても設備停止を防げないかもしれません。
つまり、
「分かったこと」と「解決できること」は同じではない。
ということです。
「人が足りない」は、本当に人数の問題なのか
もう一つ考えたいことがあります。
企業が「人手不足」と言う時、本当に不足しているのは人数なのでしょうか。
もちろん、絶対的に技術者が足りない会社もあるのは事実だと思います。
でも実際には、
- ある地域では技術者が足りない
- 別の地域では少し余力がある
- 特定製品を扱える人だけ足りない
- ベテランに難案件が集中している
- 移動時間が長すぎる
- 部品待ちで技術者が動けない
- 予定変更の調整に時間がかかっている。
といったことが混ざっている場合もあります。
拙著『なぜ、現場は忙しいのに生産性が上がらないのか?』でも、フィールドサービスのボトルネックは企業によって違うと書きました。
訪問件数が多く、緊急対応と計画作業が混在する業態では、スケジューリングや配員が大きな制約になることがあります。
一方、訪問頻度が少ない業態では、それが最大の問題ではない場合もあります。
だから、
「人が足りないから採用しよう」
だけではなく、
「今いる人たちの時間と能力は、どこで失われているのか」
を見る必要があります。
人材不足という言葉を、そのまま原因だと思わないことです。
スケジューリングは「訪問順を決める仕事」ではない
ここで「スケジューリング」と言うと、
技術者Aは午前中に顧客X
午後は顧客Y
技術者Bは顧客Z。
という訪問予定を組む仕事を思い浮かべるかもしれません。
しかし、フィールドサービスでは、それだけではありません。
- 誰がその設備を扱えるのか
- 必要な資格を持っているか
- 過去にその顧客を担当したことがあるか
- 部品は間に合うのか
- 必要な設備情報はそろっているか
- 顧客が設備を止められる時間はいつか
- 緊急案件に備えて、どの程度の余力を残すのか。
こうした条件をそろえながら、
「誰を、どの仕事へ、いつ投入するか」
を決めるのが配員です。
拙著第2作の第5章では、
Right Technician, Right Parts & Right Information
を、
Right Timing
でそろえることが重要だと書きました。
どれか一つだけあっても、顧客の問題は解決できません。
スケジューリングとは、単に訪問順を効率化する作業ではなく、
顧客課題を一回で解決するための条件をそろえる活動
と考えた方が、実態に近いと思います。
「AIで人手不足を解決する」の、その先
今後、
「人手不足だからAIを導入する」
というプロジェクトは、さらに増えていくでしょう。
その方向性自体には、私も賛成です。
ただ、その時に一つ聞いてみたいことがあります。
そのAIによって、どの制約を外そうとしているのでしょうか。
例えば、
ナレッジ検索に時間がかかっているなら、生成AIによる検索支援は有効でしょう。
受付段階の診断が弱いなら、AIによる一次診断が役立つかもしれません。
熟練者への問い合わせが集中しているなら、過去事例から判断材料を提示するAIも考えられます。
でも、問題が、
「適切な技術者を必要なタイミングで配置できない」
ことなら、ナレッジAIだけでは解決しません。
これは当たり前のようですが、テクノロジーの話になると、意外と抜け落ちます。
拙著第2作の第7章でも、AI、FSM、モバイル、IoTは、それ自体を導入することが目的なのではなく、現場の判断を助け、業務の制約を外すために使うべきだと書きました。
AIが注目されることに問題があるのではありません。
問題なのは、
AIを入れることと、自分たちの制約を外すことがつながっているか
です。
「見える技術」と「見えにくい実行能力」
今回の調査でもう一つ興味深いのは、経営の関心が向かうものと、サービスを実際に成立させる能力との違いです。
社内で注目されているテーマとしては、
- サービス収益性37%
- サービス成長35%
- 顧客体験32%
- サービス変革30%
- AI/自動化28%
が上位に挙がっています。
どれも重要です。
一方で、こうした成果を実際に作るのは、
- 人
- 部品
- データ
- 配員
- 業務プロセス
といった、あまり華やかではない仕組みです。
Copperberg自身も、成長、収益性、顧客体験、AIによる生産性向上といった「得たい成果」に戦略的な関心が集まる一方、それを支える人、部品、データなどの基盤能力は目立ちにくい、という問題を指摘しています。
これは、日本企業に置き換えても考える価値があると思います。
「AIを使っています」
「予知保全に取り組んでいます」
という話は、経営会議でも説明しやすい。
一方、
「スキル情報を整理しました」
「部品到着と訪問計画を連動させました」
「拠点を越えて技術者を融通できるようにしました」
「緊急案件のために余力を残す配員ルールを見直しました」
という改善は、少し地味に見えるかもしれません。
でも、その地味な仕組みがなければ、AIが生み出した予測や提案を実行できません。
顧客価値も、「実行できるか」まで考える
今回の調査では、サービスリーダーが最も対話したいテーマとして、
「顧客が実際に何を価値と感じているのか」
を60%が選んでいます。
組織サイロの解消は37%でした。
顧客価値への関心が高いこと自体は、とても良いことだと思います。
ただし、
「お客様の声を聞きましょう」
だけでは、サービスは変わりません。
例えば顧客が、
「設備停止時間をもっと短くしてほしい」
と言ったとします。
では、その価値を提供するには、
- どの案件を優先するのか
- どんなスキルが必要なのか
- どこに部品を置くのか
- どのくらいの余力を持つのか
- どんな契約にするのか
- どの程度のコストがかかるのか。
まで翻訳する必要があります。
顧客価値は、現場で実行できる仕組みに変換されて初めて価値になる。
ここでも、人・部品・情報・配員という実行能力が必要になります。
人手不足への答えは、「人を増やす」だけではない
フィールドサービスの人手不足は、これから簡単に解消する問題ではないでしょう。
だからこそ、採用だけではなく、
- 今いる人をどう使うか
- どの仕事を自動化するか
- どの仕事を遠隔化するか
- 誰にどの判断を任せるか
- 熟練者をどこへ投入するか
- 部品や情報をどう同期させるか
まで考える必要があります。
これは、人を効率よく「詰め込む」ための話ではありません。
拙著第2作でも書いたように、技術者の稼働率を高めすぎれば、緊急対応の余力を失い、かえって全体のスループットを悪化させることがあります。フィールドサービスで見るべきなのは、単なる作業件数ではなく、一定期間内にどれだけ顧客課題を解決できたか(=生産性)です。
だから、「人の使い方を最適化する」とは、
一人ひとりをもっと忙しくすることではありません。
限られた人材を、顧客課題を解決できる場所へ、必要な条件と一緒に配置すること。
です。
AIの先にある「実行能力」を見る
今回のCopperbergの調査を、
「AIへの関心が高すぎる」
という話として読む必要はないと思います。
むしろ興味深いのは、
AIへの期待が高まるほど、そのAIが出した答えを実行する能力が重要になる
という点です。
異常を予測する 故障原因を推定する 次のBest Actionを提案する
そこまではAIができるようになるかもしれません。
でも最後には、
- 人を動かす
- 部品を動かす
- 顧客と調整する
- 判断する
- 現場で解決する
という仕事があります。
AIが賢くなれば、この実行能力が不要になるのではありません。
むしろ、
AIによって「何をすべきか」が分かるようになるほど、それを実行できないことが次のボトルネックとして目立つようになる
のではないでしょうか。
人手不足を本当に課題だと考えるのであれば、
「AIで何ができるか」
と同じくらい、
「限られた人を、どうすれば顧客課題の解決へつなげられるか」
を考える必要があります。
今回の4%という数字は、そのことを改めて考えさせてくれました。
あなたの会社では、「人が足りない」と言いながら、今いる人をどう使うかを十分に見直していますか?
そして、AIが異常を予測した時、必要な人、部品、情報、時間をそろえて、実際に行動へ移せる状態になっていますか?
YMG Advisoryでは、AIやFSMなど目立つテクノロジーから改革を考えるのではなく、顧客依頼から解決完了までのFLOWを見ながら、どこが本当の制約になっているのか、Right Technician、Right Parts、Right InformationをRight Timingでどうそろえるかという視点から、フィールドサービス改革を考えています。
参考
Copperberg / Field Service News, The Conversations Changing Service in 2027 — According to 100 Industry Leaders, October 2026.Copperberg, Service at the Core: What 100 service leaders are really saying about 2027.
本調査は100人のサービス/アフターマーケットリーダーの回答をもとにしたもので、公開ページでは回答者構成や設問設計の詳細すべては確認できません。
また、記事は、人による企画・編集のもとAI支援を用いて制作し、人によるレビューを経ていることが明記されています。