#11:すべての拠点が、すべての修理に対応する必要があるのか?

ADAS対応から考える、拠点単位の効率化を超えたサービスネットワークのスループット

顧客に近い場所にサービス拠点があり、どんな修理にも対応できる。

サービスを提供する企業にとっても、顧客にとっても、それが理想的な姿に見えるかもしれません。

しかし、製品や設備の高度化に伴い、サービス提供に必要な技術、設備、資格、知識はますます専門化しています。

すべての拠点に必要な設備をそろえ、同じスキルを持つ技術者を配置する。それは本当に合理的なのでしょうか。

反対に、高度な修理を一部の専門拠点に集約すれば、顧客の利便性や対応スピードを損なうことにならないでしょうか。

今回考えたいのは、個々の拠点の対応能力をどう高めるかという話ではありません。

サービス事業全体として、必要な能力をどこに持ち、ネットワーク全体でどのように活用すれば、顧客に約束したサービスを確実に提供できるのか。

海外の自動車アフターマーケット調査を材料に、既存のサービス拠点網をどう機能させるかという視点から考えてみたいと思います。


修理需要があっても、対応できなければ売上にならない

Roland Bergerが2026年10月28日に公開した「Automotive Aftermarket Pulse 2026」は、世界14市場の自動車アフターマーケットを対象とした調査です。今回、日本が初めて調査対象市場に加わりました。

注目したいのは、ADAS(先進運転支援システム)への対応に関する調査結果です。

ADASへの対応能力がない、または限定的な整備工場の69%が、対応できずに修理を断った経験があると報告されています。

ADASは、衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援など、車両の安全性を支える技術です。こうした機能の高度化に伴い、修理や部品交換の後には、専用の診断・校正設備や、それを扱える技術者が必要になるケースもあります。

つまり、修理需要が存在していても、それを引き受けるための設備や技術を持っていなければ、仕事を受けられないということです。

同レポートでは、ADAS対応を進めるうえで、設備投資の負担が大きな制約になっていることも指摘しています。

もちろん、69%という数字は日本の整備工場だけを対象としたものではありません。日本が調査対象に加わったとはいえ、公開されている情報から日本固有の状況を判断することはできません。

また、この数字だけから、設備投資をすれば対応できる仕事がすべて売上になるとも言えません。

ただし、製品の高度化によってサービス提供に必要な能力が変化し、それに伴って設備投資や人材育成の負担が増えるという問題は、自動車業界に限った話ではないでしょう。


すべての拠点に同じ能力を持たせることは合理的か?

ADASに対応するための設備や技術者が必要になったとき、整備工場が取る選択肢は、設備を購入し、技術者を教育して、自社で対応できるようにすることです。

しかし、すべての整備工場が同じ投資を行う必要があるでしょうか。

例えば、ある地域の整備工場で、高度なADAS関連の修理が月に数件しか発生しないとします。

そのために高額な診断・校正設備を購入し、専門技術者を配置しても、設備の稼働率は低くなるかもしれません。

技術者についても、実際に対応する機会が少なければ、経験を積むことが難しくなります。

設備を保有していることと、継続的に高い品質でサービスを提供できることは、必ずしも同じではありません。

一方、すべての拠点に同じ能力を持たせなければ、顧客は遠方の専門拠点まで車両を持ち込む必要があるかもしれません。移動や予約の調整によって、修理完了までの時間が長くなる可能性もあります。

つまり、どちらにもコストがあります。

  • 各拠点で対応する場合:設備投資、人材育成、稼働率の問題

  • 専門拠点に集約する場合:移動・輸送、待ち時間、専門拠点への負荷集中

重要なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。

どの修理能力を、どの場所に、どの程度持たせることが、サービスネットワーク全体として最も合理的なのか。

この問いを立てることです。


拠点ごとの能力と、ネットワーク全体の能力は違う

ここで、もう一つ視点を変えてみたいと思います。

サービスネットワークの能力を考えるとき、各拠点の人員数、設備数、稼働率などを集計することがあります。

しかし、それだけでネットワーク全体の実際のサービス提供能力が分かるでしょうか。

例えば、次のような二つの拠点があるとします。

A拠点では、特定の修理案件が集中し、予約待ちが発生しています。
一方、B拠点には同じ修理に対応できる技術者と設備があり、一定の余力もあります。

この場合、A拠点に技術者を増員したり、新たな設備を導入したりする前に、B拠点の能力を活用できないか検討する余地があります。

もちろん、単純にB拠点へ仕事を移せばよいわけではありません。移動時間、顧客との距離、必要部品、技術者のスキル、契約上の対応時間などを考慮する必要があります。

それでも、A拠点だけを見ていると「人が足りない」という結論になる問題が、ネットワーク全体を見ることで「既存の能力をうまく活用できていない」という別の問題として見えてくる可能性があります。

ここで区別したいのが、次の二つです。

Capability(対応能力)

何ができるのか。どの製品、どの種類の修理に対応できるのか。どのような設備、資格、技術、経験を持っているのか。

Capacity(処理能力)

どれだけの仕事を、いつ、どこで処理できるのか。現在の負荷や予定を考慮したとき、どの程度の余力があるのか。

例えば、特定の修理に対応できる技術者が3人いても、その3人がすでに予定を埋めていれば、追加の仕事を引き受ける余力はありません。

反対に、予定に空きがあっても、必要な資格や設備がなければ、その仕事を受けることはできません。

何ができるかという能力と、実際にどれだけ処理できるかという能力は、分けて把握する必要があります。

この二つを拠点ごとに把握し、ネットワーク全体で組み合わせることが、既存のサービス拠点網を機能させる出発点になります。


既存ネットワークの能力を、どう引き出すか?

では、すでに全国に拠点を持ち、自社社員や協力会社がそれぞれの地域でサービスを提供している企業は、何から考えればよいのでしょうか。

ここでは、新しい拠点網を一から設計する話ではなく、既存のネットワークを活用することを前提に考えてみます。

私なら、まず次の4つの視点から整理します。

1) どこで、どのような需要が発生しているのか

最初に必要なのは、需要の把握です。

過去の修理実績を地域別、製品別、修理内容別に整理することで、どこで、どのような仕事が発生しているのかを把握できます。

ただし、過去の実績をそのまま将来の需要と考えることには注意が必要です。

例えば、対応能力がなかったために断った案件、技術者や部品の不足で先送りした案件、顧客が長期間待たされた結果として失注した案件は、通常の作業実績には表れません。

過去の実績は、実際に発生した需要のすべてではないということです。

さらに、設備の設置台数、製品の経年変化、サービス契約、季節変動なども考慮すれば、将来どの地域で、どのようなサービス需要が増える可能性があるのかを考える材料になります。

Forecast(需要予測)は、単に将来の仕事量を予測するためだけのものではありません。

将来の需要と、現在のサービス提供能力との間に、どのようなギャップが生まれるのかを把握するためにも使えます。

2) 各拠点が、何を、どれだけできるのか

次に、供給側の能力を把握します。

ここで見るべきなのは、単純な技術者数や設備数だけではありません。

  • どの製品、どの種類の修理に対応できるのか

  • 必要な資格や専門スキルを持つ技術者は何人いるのか

  • 特殊な診断・修理設備を保有しているか

  • 必要な部品をどこから、どの程度の時間で調達できるか

  • 現在の作業負荷を考慮すると、どの程度の余力があるのか

  • 協力会社を含めた場合、どの地域で何ができるのか

といった情報です。

特に、協力会社の能力を把握できているかどうかは重要です。

自社の拠点だけであれば、技術者のスキルや稼働状況をある程度把握できても、協力会社については、対応可能な作業や現在の負荷、空き状況が十分に見えていないことがあります。

その場合、ネットワーク全体の能力を正しく把握することはできません。

協力会社は単なる外部の作業要員ではなく、サービスネットワークを構成する重要な能力の一部です。

3) 需要と能力を、ネットワーク全体で組み合わせる

需要と能力の両方が見えてきたら、次に考えるのは、どの仕事を、どの拠点や技術者に割り当てるのが合理的かということです。

例えば、次のような選択肢があります。

  • 地域拠点で対応する

  • 高度な修理は専門拠点に集約する

  • 近隣拠点から技術者を応援に出す

  • 協力会社の能力を活用する

  • 専門家が遠隔で地域の技術者を支援する

ただし、最も空いている拠点に仕事を割り当てればよいわけではありません。

- 顧客との契約上の対応時間
- 設備停止による影響
- 技術者のスキル
- 部品の手配状況
- 移動時間

などを考慮する必要があります。

例えば、遠方の拠点に余力があっても、移動に時間がかかり、顧客との約束を守れないのであれば、そちらに仕事を回すことは適切ではありません。

反対に、少し遠方であっても、専門性の高い修理を一度で完了できる拠点があれば、結果として顧客の解決リードタイムを短縮できる場合もあります。

重要なのは、拠点ごとの稼働率を均等にすることではありません。

顧客への約束を守りながら、ネットワーク全体として、どれだけ多くの仕事を解決完了まで進められるか。

これを判断基準にすることです。

4) 結果を確認し、次の配置や運用を見直す

最後に、実際にネットワーク全体の能力が活用できているかを確認します。

例えば、拠点間で仕事を融通するようになったとしても、顧客の待ち時間が長くなったり、移動コストが増えたり、再訪問が増えたりしていれば、必ずしも改善とは言えません。

見るべきなのは、拠点ごとの稼働率だけではありません。

  • 顧客依頼から解決完了までの時間

  • 対応できずに断った案件や先送りした案件

  • 拠点間の応援や仕事の融通による処理量の変化

  • 一次解決率と再訪問率

  • 技術者のスキル不足や部品不足による未完了件数

  • 緊急対応に使える余力

こうした指標を組み合わせて、どこで仕事が止まっているのかを確認します。

そして、改善によって一つの制約が解消されたら、次に何が制約になっているのかを見直す。

この繰り返しが必要です。

最初から完璧なデータや精緻な予測モデルを用意する必要はありません。

まずは一部の地域や修理種別で需要と能力を整理し、実際の業務の流れを確認することから始めてもよいでしょう。


需要予測だけでは、ネットワークの能力は分からない

ここで、少し注意しておきたいことがあります。

需要予測を高度化すれば、サービスネットワークの問題が解決するわけではありません。

需要予測が示すのは、将来どの程度の需要が発生する可能性があるかという見通しです。

その需要を実際に処理できるかどうかは、別の問題です。

例えば、ある地域で特定の修理需要が増えると予測できたとしても、その修理に対応できる技術者がいなければ、仕事は完了できません。

設備があっても、必要な部品が届かなければ修理はできません。

技術者も部品もそろっていても、顧客の設備停止可能時間と合わなければ、作業できない場合があります。

つまり、需要予測と能力把握は、別々に行うものではありません。

将来の需要と、実際に利用できる能力を突き合わせて、初めてネットワーク全体のサービス提供能力を考えることができます。

また、過去の実績だけを使った需要予測には、もう一つの問題があります。

対応できなかった仕事は実績に残らないため、過去の実績をそのまま使うと、需要を過小評価する可能性があることです。

だからこそ、完了した仕事だけでなく、断った仕事、延期した仕事、対応が遅れた仕事も含めて、需要を把握する必要があります。

ここは、サービスネットワークを考えるうえで見落とされがちな点だと思います。


拠点単位の最適化が、全体の生産性を高めるとは限らない

拙著『なぜ、現場は忙しいのに生産性が上がらないのか?』の第2章では、フィールドサービスを顧客依頼から解決完了までの一連の流れとして捉えることの重要性を説明しました。

第3章では、忙しい場所と、全体の流れを止めているボトルネックは必ずしも同じではないことを取り上げています。

今回のテーマも、まさにこの考え方につながります。

各拠点が自分たちの稼働率を高め、担当エリアの仕事を効率的に処理しようとすることは、決して悪いことではありません。

しかし、それぞれの拠点が自分たちの効率だけを追求した結果、他の拠点にある余力を活用できなかったり、専門性の高い仕事を無理に地域拠点で処理しようとしたりすれば、ネットワーク全体としては非効率になる可能性があります。

第4章では、KPIを現場や部門を評価するための数字ではなく、流れの詰まりを見つけるための観測装置として捉えています。

例えば、拠点別の稼働率が高いことだけを評価すれば、余力を残して他拠点を支援する行動が評価されなくなるかもしれません。

また、訪問件数だけを追えば、難しい修理を他拠点に回すことが不利に扱われる可能性もあります。

個々の拠点にとって合理的な行動が、ネットワーク全体の成果と一致するとは限らないのです。

さらに、第5章では、

Right Technician(適切な技術者)
Right Parts(適切な部品)
Right Information(適切な情報)を
Right Timing(適切なタイミング)で

そろえることの重要性を説明しました。

この考え方は、個々の案件だけでなく、複数の拠点からなるサービスネットワーク全体にも当てはまります。

必要な技術者や部品が、ネットワークのどこかに存在していても、それを必要な場所に、必要なタイミングで届けられなければ、顧客課題の解決にはつながりません。

つまり、ネットワーク全体で能力を活用するためには、拠点間の情報共有だけでなく、仕事の割り当てや部品の手配、顧客との日程調整までをつなげて考える必要があります。


すべてを自社で持つことが、競争力とは限らない

製品や設備の高度化が進むほど、サービス提供に必要な能力も専門化していきます。

そのすべてを各拠点が個別に保有しようとすれば、設備投資や人材育成の負担は大きくなります。

一方で、能力を一部の専門拠点に集約しすぎれば、顧客対応のスピードや地域カバー力が低下する可能性もあります。

したがって、これからのサービス事業に求められるのは、各拠点が何でもできるようにすることではありません。

個々の拠点を効率化することと、サービスネットワーク全体の提供能力を高めることは、必ずしも同じではない。

この違いを理解することが、今回のテーマの出発点です。

新しい拠点を作ることや、既存拠点を統廃合することを考える前に、まずは今あるネットワークの中で、どのような需要が発生し、どの拠点にどのような能力があり、それらをどこまで組み合わせられるのかを把握する。

そこから、どこに本当の制約があるのかを見極める。

最初から完成された最適解を求める必要はありません。現状を把握し、小さな範囲で仕事の割り当てや拠点間連携を見直し、その結果を確認する。そうした取り組みを繰り返すことが、既存ネットワークの能力を引き出す第一歩になると思います。


あなたの会社では、拠点の能力をネットワーク全体で活用できていますか?

最後に、皆さんの会社について、いくつか問いかけてみたいと思います。

  • 各拠点が、どの製品・どの種類の修理に対応できるかを把握できているでしょうか。

  • 拠点ごとの人員数だけでなく、スキルや設備、実際に引き受けられる余力まで見えているでしょうか。

  • 対応できずに断った仕事や、先送りした仕事も、将来需要を考える材料として把握しているでしょうか。

  • ある拠点で仕事が集中したとき、他の拠点や協力会社の能力を活用できるでしょうか。

  • 拠点ごとの稼働率だけでなく、ネットワーク全体として顧客の問題をどれだけ早く、確実に解決できたかを測っているでしょうか。

サービス事業の競争力は、個々の拠点が何でもできることではなく、ネットワーク全体として、必要なサービスを適切な場所とタイミングで提供できることにあります。

YMG Advisoryでは、フィールドサービス・アフターサービスの現場業務だけでなく、顧客依頼から解決完了までの流れ、ボトルネック、KPI、リソース配置などを横断的に捉え、サービス事業の生産性向上を考える支援を行っています。

自社のサービス拠点や協力会社の能力は、ネットワーク全体として活用できているでしょうか。

拠点ごとの頑張りを積み重ねるだけでなく、サービス事業全体のスループットという視点から、一度見直してみてはいかがでしょうか。

 

参考資料

  • Roland Berger, Pressure and disruption in the automotive aftermarket – Automotive Aftermarket Pulse 2026, October 28, 2026.

    Roland Berger – Automotive Aftermarket Pulse 2026

    ※本記事で紹介した69%は、調査対象市場におけるADAS対応能力が限定的な整備工場についての回答です。日本の整備工場における割合ではありません。
    また、公開情報では、日本固有の結果や詳細な調査方法のすべては確認できません。調査結果と、そこから導いたYMG Advisory独自の考察は区別しています。
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